この前、会社帰りの電車で、すごく感じのいい相槌を打つ女の子と隣り合わせになった。

とはいっても、僕は彼女の隣に偶然座っただけで、別に知り合いってわけじゃない。残念だけど。

そのとても感じのいい相槌を打つ女の子は、同僚らしい男性の話を、感じのいい相槌を惜しみなく打ちながらとても感じよく聞いていたんだけど、あんまりにも相槌が素敵だったので、ビジ法1級のテキストを読むのを一旦中断して、その感じのいい相槌に耳を傾ける事にしてみた。

言ってる事は
「へぇ、そうなんですか」
とか
「それで、どうしたんですか?」
みたいなありふれたセリフなんだけど、タイミングや口調や声色が気持ちよく調和して、なんだか村上春樹の短編小説に「感じのいい相槌を打つ女の子」として登場してもおかしくないんじゃないかと思わせるような、とてもすばらしい相槌だった。

ただ、その相槌の相手が口にする話がほんとにどうでもいいことで、一言で言うと「俺は、社内の人間関係に詳しいんだぜ」ってことなんだけど、それをくどくどだらだらと語っている。
例えば、「エイギョウのタカハシってさぁ、ウケツケのヤマシタ狙ってるんだよね。」とか、「ソウムのサカキバラって、離婚したんだって。」とか。ばかじゃないの。

だけど、そんな話に対しても、その感じのいい相槌を打つ女の子は、
「え、知りませんでした」
なんて相槌を打ってるんだから、これはもう、資源の無駄遣いとして言いようが無い。
経済制裁も視野に入れて強い姿勢で抗議すべきではないですかソーリそこのところをどのようにお考えですかなんてことをぼんやり思っているうちに僕が降りる駅に到着してしまったので、最後に感じのいい相槌を打つ女の子はどんな人だったんだろうかだけを確認しておこうと、さりげなく目をやってみると・・・

いや、形容のしようが無いくらいにフツーの人で、思わず固まってしまった。
なんだか村上春樹の短編小説に「形容のしようが無いくらいにフツーの女の子」として登場してもおかしくないんじゃないかと思わせるような、とてもフツーな外見だったんだもん。
でももちろん、見ず知らずの男が自分を見て固まっているのを見てそのフツーの女の子が気味悪がらないわけはなく、感じのいい相槌を打つ見た目が極めてフツーな女の子は「え?なに?」という怪訝な表情をそのフツーな顔に浮かべていた。まぁ、そりゃそうだ。

で、そのフツーな顔に怪訝な表情が浮かんだのを見て我にかえった僕は「あ、中学生の頃好きだった人に似ていたから驚いちゃった」みたいな雰囲気を漂わせようとして、そして、予想通りその斬新な試みはおおむね失敗に終わって、そそくさと駅のホームへ降り立ったのだった。

来週も、あのフツーの女の子はきっとあのどうでもいい腐った玉ねぎみたいなオハナシを聞きながら
「そんなこと、あったんですか?」
なんて相槌を打つのだろうけど、まぁなんだかそれも別に悪くないんじゃないかな、なんて事を駅の階段を上りながら思ったのだった。