2011年10月

これが法律本の範疇に入るのか定かではないのですが、コンプラ研修の準備つながりで、烏飼先生の「豊潤なる企業」を読んだので、10月分としてレビューします。

全体を通じて烏飼先生から(遵法意識に欠ける)経営者へのお説教といった趣きが漂っており、情報密度はあまり高くない反面、とても読みやすい一冊でした。

この本を貫く思想は、
誤解を恐れずにいえば、内部統制に関する法律の規律は、本来、必要がない。なぜならば、経営者がある程度の規模の企業を経営していれば、経営者は企業全体を見渡せないので、おのずから企業全体に対する経営管理をするための体制を築く必要がある。これこそがまさに内部統制システムそのものであり、規模の大きな大企業においては法律に規律されるまでもなく、すでに内部統制システムは構築しているからである。その意味では内部統制システムは、そもそも経営管理という経営者が企業の恒久的成長を図るという役割を果たすために、当たり前のことを指しているに過ぎない。
p38-39(太字katax)
であり、これを「当然そうだよね」と受け入れられる方にとっては、この本のかなりの記載を冗長に感じるのではないかと思います。

また、「”車の両輪論”から”優先順位論”へ」(p133-)で述べられている、売上確保と法令遵守は車の両輪ではなく、法令遵守を優先させるよう経営者が明確に打ち出さないと結局法令違反状態に陥るという指摘は、とても重要だと思います。
ただ、これを徹底してしまうと、特に日本以外の「きれい」ではない国でビジネスをしている企業にとっては建前も甚だしいと捉えられてしまうことは必須だと思うので、やはりコンプライアンスは「期待・信頼」を軸にしないとだめなんじゃないかな、とも再認識しました。基準として明確でないので具体的な行動に結び付けるまでが大変なんですけどね。

その他にも、不提訴理由書や会計監査人に対する株主代表訴訟等を軸にした取締役の法的責任に対する追及の厳格化や、取締役の善管注意義務違反が問われた著名な裁判例・判例の解説なども、新たに役員になる方にとっては興味深いのではないかと思います。

難点としては、ほとんどの図解が役に立たない、(特に後半の)問題提起や択一設定に?なものがあるという点がやや気になりました。
また、リーガルマインド喪失症の項目で繰り返し「社会から見れば」「社会に迷惑をかけた」といった具合に「社会」という存在が登場するのですが、この「社会」は、結局のところマスコミと、マスコミの視聴者層なので、そこのところを情緒的にならずにテクニカルな対応方法を見せてくれたらよかったのに、といったことも感じました。

もし、何かの拍子で役員層向けにコンプラ研修をやらなければならないということになったら、この本はいいネタになるんじゃないかと思います。



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コンプライアンス研修を今まで何度か受け、また自分で企画してきて確信に至ったんだけど、例外的なケースを除いて、コンプライアンス研修では何が良くて、何が悪いのかを教えてちゃダメなんだと思う。
ほとんどのコンプラ違反の場面では、「それが悪いこととは知らなかった」わけではないので実際の効果として期待薄だし、何よりコンプラ意識が低い段階ではコンプラ離れを加速させてしまう。

じゃぁ、何を伝えれば良いのかというと、それは、「(きれいごとではない)コンプライアンスに取り組む必要性」と、「コンプライアンスは、実現するのがすごく困難であるという事実」なんじゃないかと今は考えている。

その上で、個別の知識については、コンプラ研修の外に知識習得用の予備校的なスタイルで習得してもらう。

つまり、コンプラ意識の醸成と知識の習得を完全に切り離してしまった方が良いんじゃないか、と。

近々コンプライアンス周りの整備を担当することになりそうなんだけど、今まで各個撃破のような対応しかしてこなかった反省を踏まえて、今回はちゃんと戦略を立てながら進めてみたい。
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