2013年04月

こんにちは。
突然ですが、師匠、商法総則参照し賞賛を素早く3回口に出して言ってみてください。
どうでしたか?

じつはこれ、難しいのは「総則」のところだけなんです。
難しいように見えて、実はかんたんということ、世の中には結構たくさんあるみたいですよ。


えー、さて、タイトルのとおり、今回のテーマは「登録不要の無料サービスに関する利用規約」についてです。

登録不要の無料サービスと言うのは、たとえばニュースサイトとか、お天気情報サイトを想定しているわけですが、これがなんでわざわざブログで取り上げるようなテーマになるかと言うと、このようなサービスは、ユーザーから明示的な同意を取るチャンスが基本的にはない、という特徴があるからです。(だからこそ、気軽に利用でき、ユーザーのすそ野を広げやすいわけですが。)

この点について、先日開催された利用規約ナイトVol2のパネルディスカッションで「ユーザーから利用規約に対する許諾を取らなくても利用規約によって拘束できるような方法はないか」という質問を頂き、また先日の長い名前のイベントでもまた同様のご質問がありました。

ご存知の通り、契約は意思の合致によって成立する法律行為なので、ユーザーからの明示的な同意を取れないとなると、「利用規約によってユーザーを拘束する」=「ユーザーとの間で利用規約を内容とする契約を締結する」ということは、とても難しいということになります。
そのため、利用規約ナイトVol2での回答も「原則として、同意を取らなきゃユーザーを拘束できません」であり、先日の長い名前のイベントでの回答も「同意を取らないと厳しいが、同意を取れないのであれば、ユーザーの目につきやすい場所に利用規約を常に表示しておくことでなんとか・・・」といった感じだったと記憶しています(完全に僕の記憶頼りの再現なので、勘違いや誤解をしていたらごめんなさい。)

この回答は、契約の原則に照らせば当然の結論ではあるのですが、その一方で、どうしても違和感を拭い去ることができません。
そんなわけで、今日のお昼にお弁当を食べながらもう一度考えてみたところ、どうやら違和感の源泉は、「登録不要の無料サービスって、そもそもユーザーとサービスプロバイダの間に何の契約もないんじゃね?」ということに思い至りました。
これはつまり、何の契約もなければサービスプロバイダはユーザーに対して契約責任は負わないので、まっとうなウェブサービスを展開しているだけであれば、ユーザーに対してもともと何の責任も負ってない(だから、利用規約なんて不要)と言うことになるんじゃないか、ということです。

「仮にユーザーに対して法的責任を負わないとしても、事実上のクレームを捌くために利用規約はあった方がいいんじゃないか」、というご指摘もあるかもしれませんが、そもそもユーザーに対して何の責任も負っていないのであれば連絡先を明らかにする必要もないわけで、連絡先を隠しちゃえばクレームどころかユーザーから何の連絡も受けずに済んでしまいます(それをサービスプロバイダが望むことかはわかりませんが・・・)

といったところで、お昼休み終わりでーす。




【追記】
Twitterで以下のご指摘を頂きました。ご指摘の通りだと思いますので、本エントリー中の「登録不要」は、「ユーザーから同意を得るチャンスの無い」に読み替えていただければと思います。
ご指摘ありがとうございました!



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みなさん、お元気ですか?
僕は元気です。

さて、昨日(4/10)に開催された「シード・アーリースタートアップのためのウェブサービスを支える「利用規約」の基本」という、おそろしく長いタイトルのイベントに、昨日パネリストとして参加してきました。

タイトルに「シード・アーリースタートアップのための」と書いてあるのに、参加者層は明らかに違う属性のかっちりとした皆様で、利用規約ナイトに続いて「どうしてこうも法務系の人がたくさん参加されるのだろうか(別に呼んでないのに)」という疑問を感じながらのスタートとなったわけですが、考えてみれば、利用規約についてまとまった知識を得られる場って、今までほとんどなかったんですよね。

AZX雨宮さんのセミナーを拝聴したり、利用規約本を書いたりしている中で少し麻痺していましたが、僕自身、利用規約やPPに関するまとまった情報がどこにも存在しておらず、法務として「これでいいのかなぁ」という疑問に常に不安を抱きながら業務にあたっていたわけで、僕だってパネリストとしてお声掛けいただいていなければ、普通に(呼ばれてないのに)参加していたと思うのです。


ところで、当日出た話題の中で
アプリの売買が行われる際、異なるアカウント間でアプリを移動させるためには、移行元アカウントでのアプリの取り下げと移行先アカウントでのアプリの申請を行うしかなく、ダウンロード数等の実績がリセットされてしまうが、これに対して有効な手立てがないか

というものがあり、後で皆さんと意見交換しようと思っていたのにすっかり忘れていたので、ここでこの点について考えたことを書いてしまおうと思います。

まず、GooglePlayはよく知りませんが、少なくともAppStoreにおいては、ランキングに載るか載らないかということは売り上げを大きく左右するとても重要な要素です。その意味で、現在ランキング上位にいるアプリについてアカウント移動のために取り下げ&再申請をするのは合理的な選択とは言えないと思います。
加えて、レビューサイトやブログ等に貼られているアプリダウンロードページへのリンクもおそらく無効になってしまうでしょうから、なおさらです。
となると、既にランキング上位のアプリや、レビューサイト等で取り上げられているアプリについては、アプリの売買の実態を「著作権&ソースコード譲渡とAppStoreへの掲載維持&申請代行&収益の分配等に関する業務委託」契約とするのがいいんじゃないかなぁと考えるわけです。
この方式では、「〇〇によるiPhone App」の欄に譲渡先のアプリを表示できないという問題もありますが、大した問題ではないと思います。

逆に、まだランキングに載っておらず、大手レビューサイトに取り上げられてもいないようなアプリについては、普通に取り下げ再申請方針で譲渡をすればいいんじゃないかと思います。

といったところで昼休みが終わったのでばいばーい。

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1.はじめに
BtoCの契約には消費者契約法という法律が適用され、その消費者契約法の中には「消費者に一方的に不利な条件は無効になる」という規定が存在しています。
そして、無効とされるケースの一つとして、事業者の不法行為や、事業者が義務を果たさなかったことによって消費者に生じた損害の賠償責任について
A. 全部免責する条項
B. 事業者側に故意または重過失があるケースで一部を免責する条項
が定められています。(消費者契約法第8条1項1号〜4号

この消費者契約法の制限は、仮に消費者が同意していたとしても覆せない性質のものであるため、避けて通ることはできないのですが、ウェブサービスにおいては多くのユーザーから薄く広く売り上げを上げるモデルを採ることが通常です。そこで、事業者としてはユーザーによる損害賠償請求からは極力逃れようとがんばるわけです。
そこで今回のエントリーでは、有名どころのウェブサービスがどうやって消費者契約法に対応しているかについて、実例を見ていこうと思います。

2.他社の実例
GREEhttp://gree.jp/?mode=doc&act=misc&page=terms
9-2 (略)また、ユーザーは、グリーに故意または重過失がある場合を除き、いかなる場合においても、(i) かかる損害賠償の対象となる損害が、グリーの責に帰すべき事由に起因して現実に発生した、直接かつ通常の範囲の損害に限定されること、および(ii)グリーがユーザーに対して賠償する損害の累積額は、グリーが本サービスに関連してユーザーから支払を受けた金銭の合計額を上限とすることに同意します。

GREEのスタンスは、
1.損害賠償の範囲を直接損害・通常損害に限定
2.ユーザーが支払った金銭の合計額を損害賠償の上限として設定
という限定をかけつつ、
3.上記1&2の限定は、故意または重過失がある場合には適用しない
という構造で、消費者契約法第8条1項の制限ギリギリを狙っています。
消費者契約法にヒットする部分を除いて制限をかけるというオーソドックスなスタイルですが、GREEは基本無料のサービスであり、無料でGREEを利用しているユーザーにとっては本項が「A. 全部免責」となってしまう点がどう判断されるのかやや気になるところではあります。


mobgehttp://yahoo-mbga.jp/page/kiyaku/index2.html
第12条
4 本規約において当社の責任について規定していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します。
5 当社は、当社の故意または重大な過失によりモバゲー会員に損害を与えた場合には、その損害を賠償します。

mobageのスタンスは、
1.DeNAの故意または重大な過失により会員に損害を与えた場合には損害を賠償する
という原則を5項で規定しつつ、
2.DeNAの責任について規定がない場合は1万円を損害賠償の上限として設定
という制限を4項でかけてます。
5項が「DeNAの責任について規定がある場合」に該当するため、GREEと同様の消費者契約法にヒットする部分を除いて制限をかけるというオーソドックスなスタイルと言えると思います。
しかし、
・DeNAの規約の12条4項が除外対象としているのは「規約に当社の責任について規定がない場合」であって5項以外も上限が外れてしまう場合が文理上はあり得るという点、
・12条5項は故意・重過失時の責任限定を明示的には排除していないため、他の条項に損害賠償責任の免責が規定されていた場合に「故意・重過失時に責任が限定されている」と解釈される可能性が文理上はあり得るという点
で、やや危うさを感じました。

LINEhttp://line.naver.jp/terms/ja/
14.2. 当社は、本サービスに起因してお客様に生じたあらゆる損害について一切の責任を負いません。ただし、本サービスに関する当社とお客様との間の契約(本規約を含みます。)が消費者契約法に定める消費者契約となる場合、この免責規定は適用されません。
14.3. 上記14.2.ただし書に定める場合であっても、当社は、当社の過失(重過失を除きます。)による債務不履行または不法行為によりお客様に生じた損害のうち特別な事情から生じた損害(当社またはお客様が損害発生につき予見し、または予見し得た場合を含みます。)について一切の責任を負いません。また、当社の過失(重過失を除きます。)による債務不履行または不法行為によりお客様に生じた損害の賠償は、お客様から当該損害が発生した月に受領した利用料の額を上限とします。

LINEは、GREE及びmobageと異なり、
1.最初に全部免責としたうえで、
2.消費者契約法が適用される場合に上記の全部免責を外し、
3.さらに消費者契約法が適用される場合において、
 (1)過失(重過失を除く)によって生じた特別損害を賠償対象から外し、
 (2)損害発生月の利用料の金額を損害賠償の上限額として設定
するというスタイルを採っています。
LINEも基本無料なので、3(2)について、無料で利用しているユーザーにとっては事業者の全部免責になってしまうという点がやや気になります。

Yahoo! Japanhttp://docs.yahoo.co.jp/docs/info/terms/chapter1.html#cf1st
13.免責事項
当社の債務不履行責任は、当社の故意または重過失によらない場合には免責されるものとします。

なお、お客様との本利用規約に基づく当社のサービスのご利用に関する契約が消費者契約法に定める消費者契約に該当する場合、上記の免責は適用されないものとし、当社は、当社の故意・重過失に起因する場合を除き、通常生じうる損害の範囲内で、かつ、有料サービスにおいては代金額(継続的なサービスの場合は1か月分相当額)を上限として損害賠償責任を負うものとします。

Yahooは、
1.故意・重過失によらない場合は債務不履行責任について免責
と定めつつ、
2.消費者契約法が適用される場合に上記の免責を外し、
3.消費者契約法が適用される場合において
 (1)故意・重過失時を除いて損害賠償の範囲を通常損害に限定し、
 (2)故意・重過失時を除いて、有料サービスに関しては代金額を損害賠償の上限として設定
するとしています。
不法行為責任は免責の対象とせず、また消費者契約法が適用されない場合にも故意・重過失時の免責を放棄している点が特徴的です。
また、金額限定を有料サービスに限定することにより、GREEやLINEの「無料ユーザーはどうなるんだ?」という疑問も回避しています。

3.どうやって消費者契約法に対応すればいいのか
事業者の債務不履行と不法行為に基づく損害賠償責任の免責に関しては、
1.事業者に故意・重過失がある場合は事業者の損害賠償責任を免責しないことを明記する
2.事業者に軽過失(重過失でない過失)がある場合は、損害賠償の範囲を限定し、上限金額を設定する
の2段構えで対応するのが最もスタンダードな対応です。
なお、消費者契約法には、「消費者の利益を一方的に害する条項は無効」というキャッチオール規定(同法第10条)が存在しており、また、そもそも重大な事故が発生した場合に免責規定で損害賠償請求をすべて突っぱねることはレピュテーションが激しく傷ついてしまう可能性も高いので、特に有料サービスで、かつトラブル発生時には利用者に損害が生じることが見込まれるケースでは、免責でがんばるよりも、賠償責任保険やシステム上の手当てでがんばる方がベターな場合もあるという点には注意が必要かもしれません。

4.話は変わりますが
4/10に「シード・アーリースタートアップのためのウェブサービスを支える「利用規約」の基本」というイベントが開催されるのですが、このイベントにパネリストとして登壇してきます。
このブログをご覧になっている方でその属性にヒットしている方がいらっしゃるか極めて不安ではありますが、ベンチャー企業の経営者の方やウェブサービスを営んでいる個人の方は、ご興味があればぜひエントリーをお願いします。
なお、参加者からの事前質問も受け付け中です。→事前質問はこちらから


3/19に発売になった利用規約本も、引き続きよろしくおねがいしまーす。

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