1.はじめに
先日、なんの前触れもなく(まぁ、いつもそうだといえばそうだけど)Appleから「アプリの譲渡ができるようになったから、iTunes Connectにアクセスしてみてね!」という趣旨のメールが届いてびっくりしたデベロッパーの方は多いんじゃないかと思います。

今までアプリとデベロッパーとの紐付けを断ち切るためには「AppStoreからの取り下げ&別アプリとして再申請」という原始的な方法を採るしかなく、それまでに積み上げてきたユーザーやレビュー・ダウンロード数等の実績を引き継ぐ方法はなかったことに悩まされていた方も少なくなかったところに突然銀の弾丸が打ち込まれたわけで、そりゃ驚くのも無理はありません。

もしかすると、これを機にアプリ譲渡のプラットフォームが立ち上がるかもしれませんし、個人が開発したアプリを買い付けて転売する仲介業者が登場する可能性もあります。
この大きな流れの変化を傍観者として見守っているだけというのはあまりにつまらない、ということで、アプリケーション譲渡の際に用いる契約書を作って見ることにしました。

2.アプリ譲渡の実態って・・・
当初は、事業譲渡契約書をベースに、ちょちょいと手を加えたら簡単にできあがると思っていたのですが、実際に作り始めると、そう単純ではない、ということにすぐに気付かされました。

一般的に、「アプリの譲渡」と聞くと、
 1.ユーザーがインストールするアプリのソースコードと、その著作権の譲渡
がまっさきに思い浮かぶと思います。
で、実際単機能のツールなどは、これだけで十分な場合も多いはずです。

しかし、車輪の再発明が各所で行われていた黎明期とは異なり、現在は様々なライブラリやフレームワークを駆使して開発を進めるのが一般的であり、全ての著作権を譲渡できるとは限りません。
このようなケースでは、
 2.第三者が保有する著作権の利用許諾の引き継ぎ
も必要になります。

また、今主流のアプリはスタンドアロンではなく、サーバーと連携して動作するものがほとんどです。そうなると、
 3.サーバーサイドアプリケーションのソースコードと、その著作権の譲渡
 4.サーバー関連のハードウェア(またはクラウドサーバ / ホスティングサーバ利用権)の譲渡

ということもケアしなければならなくなります。
これが自社サーバではなく、第三者が提供するサービスとの連携(例えば、Twitter API経由でのTwitterの利用など)で実現しているものである場合は、さらに
 5.第三者のサービスを利用する権利の引き継ぎ
という問題も発生します。

さらに、ユーザーの位置づけも、大規模なアプリやゲームを中心に、「単なるアプリの利用者」から、「アプリをインターフェースとするサービスの利用者」へと進化しつつあります。
こうなると、
 6.ユーザーとの契約関係・債権債務の承継
という観点も無視出来ません。

既にGoogle+で「作ってみる」と宣言していなければ、検討すべき要素の多さを前に、めんどくさくなって放り出してしまっていたことは間違いない状況でした。

3.がんばってつくってみた
という状況下で、想像をふくらませながら作ってみた契約書がこちらです。
「なんでこの条文があるの?」とか、「この条文の意味は何?」といった疑問や、「これ、おかしくね?」といったご指摘があれば、ぜひ本エントリーのコメント欄でご指摘いただければ幸いです。

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4.おわりに
今回アプリケーション譲渡契約書を作ってみて思ったのは、ものすごく単純なケース(せいぜい4止まりのケース)を除いては、瑕疵担保やら保証やらで事後的にどうにかしようとするのはかなり無理がありそうだ、ということでした。

んじゃぁどうすんだよ、ということですが、これはもう、
・対Appleのアカウントと権利は譲り受ける一方で、外注先として運営はそのまま譲渡当事者にやってもらう
・人も含めて承継を受する(もはや、アプリの譲渡というより事業譲渡)
しかないのかなぁ、と思うわけです。
あまりおもしろくない結論で申し訳ないのですが、アプリの譲渡って簡単じゃないよね、ということが契約サイドからも垣間見えました、ということで、午後もがんばりりましょう!

最後になってしまいましたが、今回作成した契約書のブラッシュアップに、企業法務マンサバイバルのはっしーさんに様々なアドバイスをいただきました。
はっしーさん、ありがとうございました!