上手に使うと業務効率向上の大きな武器になる反面、暴走しちゃうと社内に混乱をもたらす諸刃の剣、それが契約書のひな形ですが、これまで数社を渡り歩く中で利用者のとっての利便性の確保と法務にとっての管理の容易性が釣り合う落とし所がが見えてきたので、ベストプラクティス案として一旦とりまとめてみようと思います。
一つ一つは当たり前のことですけど、こういう当たり前をきっちりやりきるのって、結構たいへんなんですよね。
一つ一つは当たり前のことですけど、こういう当たり前をきっちりやりきるのって、結構たいへんなんですよね。
【解決すべき課題(混乱の素)】
- 「法務チェック済みの汎用的な契約書フォーマット」と、性格が全く異なる書面、例えば以前同種の案件で利用した個別案件用の契約書などが、「ひな形」で一括りにされがち
- ひな形の改定後も、古いバージョンのひな形が利用されがち
- 内容が微妙に異なるひな形が混在しがち
- 想定外の用途に転用されてしまいがち
- 改定が滞りがち
【ベストプラクティス案】
- 「ひな形」とは呼ばない
いきなりですが、法務が管理するひな形は「ひな形」とは呼ばず、多義的な「ひな形」とは別物という位置づけにします。(過去の経験では、法務が指定したひな形という趣旨で、「指定フォーマット」や「指定フォーム」と呼ぶことが多かったです)
これにより、課題1を解決します。
→このエントリーでも、普通名詞としてのひな形と区別するために、「指定フォーム」と呼びます。
- 最新バージョン以外の利用を禁止する
指定フォームは、法務以外のメンバーはダウンロードのみ可能な設定にしたファイルサーバやファイル共有システムから、最新版のみを提供します。
また、指定フォームは、常に利用時にダウンロードすることを求めます(他案件用にローカルに保存したひな形の転用を見つけたらNGにする)。
指定フォームのファイル名末尾とヘッダーにバージョン番号を記載し、古いバージョンが利用されていた場合にすぐに気づけるようにします。
これにより、課題2を解決します。
- 提供方法を2つに分ける
指定フォームの中にも、汎用的なNDAや外注時の取引基本契約のように、どの部署でも利用する可能性があるものもあれば、出版契約や特定のコンテンツのライセンス契約など、特定の部署でしか利用しないものも存在します。
このように、特定の部署でしか利用しない指定フォームについては、指定フォームの共有フォルダまたは提供システムの設定で、利用部署だけにアクセス権を付与したり、それが手間であれば、特定の部署だけにファイルパスやURLを開示するといった方法で、指定フォームを入手できる部署を限定します。
これにより、課題4を解決します。
- 1ページ目を説明書にする
指定フォームがカバーしている用途を1ページ目に書き、契約書本文は2ページ目からスタートさせます。
これにより、課題4を解決します。
なお、当然のことではありますが、相手方も見ることになるので、余計なことは書かないように注意しましょう。(一ページ目は相手方に出しちゃだめ、的な指示が守られることはまずありません)
- フォームのみ編集可の保護をかける
指定フォームには、相手方社名、締結日などの案件によって変更する必要がある項目にテキストボックス等のフォームコントロールを設置し、フォームのみ編集可の文書保護をかけます(保護の解除は法務以外には行えないようにパスワードを管理します)。
これにより、課題3を解決し、加えて相手方からの趣味の修正を抑止する効果も得られます。
なお、フォームコントロールについては冒頭にすべて取りまとめることで、指定フォームの使い勝手が格段に向上します。
- 修正は特約事項で対応
指定フォームには、必ずテキストボックスを設置した特約事項欄を設けておき、相手方から指定フォームの契約条件の修正を求められた場合は、原則として特約事項への追記で変更に対応します。
また、修正点が多い等の理由で特約事項で対応できない場合は、ヘッダーのバージョン番号の後ろに「一部変更」等の追記を行い、指定フォームから内容が変更されていることが明確になるようにします。
これにより、課題3を解決します。
- 効果を明確に
指定フォームを利用した場合にのみ、内容に変更がなければ法務の事前チェックを省略できるという効果を得られることを明確にし、指定フォームと、指定フォーム以外のひな形の取り扱いを分けます。
これにより、課題1を解決します。
また、最新版ではない指定フォームは、指定フォームであっても上記の効果を得られないことも明確にします。
これにより、課題2を解決します。
- 改定の責任者・手順を固めておく
一度リリースしてしまった指定フォームは改定が滞る傾向にあるので、指定フォームの品質確保にコミットする担当者を法務内で選任するとともに、改定手順を明確にしておきます。
また、各法務担当者が相手方から受けた指摘や、気づいたことを手軽に放り込んで一時的にストックしておく仕組みを用意しておきます。これにはRedmineやTracなどのバグトラッキングに適したシステムを利用できるととても便利なのですが、むずかしいようであれば、専用のエイリアスを作ったり、最悪エクセルなどに書き込むのでもいいと思います(ただ、経験上、エクセル管理はうまく回らない(だれも登録してくれない)ことが多いです。とにかく簡単に放り込めるようにすることを重視してください。)
これにより、課題5を解決します。
以上です。
「もっといい方法があるよ」とか「これもやったほうがいいよ」といったご指摘をいただければ嬉しいです。