法務系Advent Calendar1日目のエントリーです。

先日、大規模な法務部を擁する会社に遊びに行った際、
ある程度辞退されることを見越して多めに修習生を採用したら全員入社まで至って嬉しい悲鳴
とのお話をお伺いし、
  • そもそも修習生をターゲットにした採用活動をしているという事実
  • まとまった人数が修習修了後ダイレクトに(法律事務所を経ずに)会社員になっているという事実
に驚かされ、いよいよ無資格法務部員にとっては苦難の時代が到来しつつあるんだな、ということを実感したわけですが、そんなこともあり、今年は「無資格法務部員のキャリアパス」について好き勝手なことを書いてみようと思います。
なお、根拠は主観や想像ですので、誤解や誤認は笑ってご容赦頂くとともに、コメント欄でご指摘頂けると幸いです。


【前提】


  • ここでは「無資格」を、日米いずれの弁護士資格も保有していない人という意味で使います。
  • 企業内弁護士の人数は、今後も現在と同等またはそれ以上のスピードで増えていくと想定しています。
  • IT系企業に所属した経験しかないので、それ意外の業種には当てはまらないかもしれません



【全体像】


実際のところ、有資格者であるか無資格者であるかを問わず、会社員というくくりで見ればキャリアパスの選択肢自体に大きな違いはありません。すなわち、マネージメント層を目指すか、スペシャリストとしてスキルを掘り下げるか、法務で培った知見をベースにジョブチェンジするか、の3択です。
今回は、法務の観点からこの3択を「法務マネージャーコース」「ガチマネージメントコース」「契約法務コース」「知財法務コース」「コーポレート法務コース」「内部統制・監査補助者コース」「投資コース」「人事コース」の8つのコースに細分化して考えてみたいと思います。
careerpath


【マネージメントルート:法務マネージャーコース】


  • 特徴


    いわゆる法務部門の責任者を目指すコースです。
    法務部門の責任者といっても、役員クラスから部門内のリーダークラスまでそのレベル感は様々です。
    積極的にマネージャーになりたいと考えている法務担当者だけでなく、将来について特に何も考えていない法務担当者も、基本的には成り行きでこのコースを進む(ものと周囲から見られる)ことになります。それでいて、実際にマネージャーになれるのは小さい組織でも数人に一人、大きい組織だと数十人に一人という狭き門なので、超絶レッドオーシャンの選択肢といえます。例えば、同年代に自分より上の覚えがめでたく、自分より優秀な同僚がいる場合、その同僚が辞めない限りマネージャーのお鉢が回ってくる見込みはありません。また、周りを見渡して自分にマネージャーになる見込みがなかったら、転職することでマネージャーの地位を手に入れたらいいんじゃないかと考えるアグレッシブな方もいらっしゃるかもしれませんが、実のところそれはそれで容易ではありません。なぜなら、マネージャーとして採用されるのは、原則としてマネージャーだけだからです。逆に言えば、似非でも飾りでもなんでも良いので、マネージャーっぽい肩書を手に入れることさえできれば、転職を通じて本当のマネージャーに華麗に転身することは不可能ではありません。

  • このコースのおすすめポイント


    マネージャーへの昇格の基準として、有資格者か否かはさほど重要視されないことが多いので、昇格の場面では無資格であることが不利に働くことについてさほど心配はいりません。
    また、ある程度年齢を重ねると、無資格法務はマネージメント経験がないと転職することが厳しくなるため、会社が傾いたときに離脱しやすくなるということも利点と言えるでしょう。

  • このコースの厳しい点


    所詮は部門責任者なので、待遇の上限や裁量の幅は限定的です。
    外資系等一部の企業においては、弁護士であることがマネージャーの要件になっており、そもそも無資格者に門戸が開かれていないことがあります。
    また、最近は将来有望なベンチャー企業には早い段階で弁護士が法務責任者として参画していることが少なくないため、「ベンチャー企業に法務として入って上場まで支援する。」という役割は無資格法務の手に渡りづらくなっています。



【マネージメントルート:ガチマネージメントコース】


  • 特徴


    管理本部長や子会社社長などの、法務の枠を超えたより広い領域をカバーするマネージャーを目指すコースです。
    もちろん、最終的には本社社長ということもありうるのでしょうが、起業したようなケースを除けば極めてレア(僕は2人しか実例を知らない)です。
    ここを目指すのであれば、法務の枠にとらわれず、意識的に経営・財務・経理・税務の知識を蓄え、経験を積むとともに、早い段階から「このポジションを目指している」ことを上司に宣言しておくことをお勧めします。とはいえ、望んでなれるものではなく、周囲が認める実力や人望と共に、卓越した運も必要になることでしょう。

  • このコースのおすすめポイント


    経営層の一員になるわけですから、他のコースと比べると待遇は良くなります。
    対外的なステータスとしても抜群で、外受けもバッチリでしょう。

  • このコースの厳しい点


    前述のように法務責任者も狭き門でしたが、このコースでは他部門のマネージャーとの競争にも勝つ必要があるため、それより更に難易度は上がります。しかも、管理部門のトップは、財務・経理系や経営企画・経営管理系の部門から迎えられることが多く、法務責任者にその役割は期待されていないこともさらに難易度の上昇に拍車をかけることでしょう(それ故に、早い段階でここを目指すことを公言すべきなのです。)。
    また、ここまで偉くなってしまうと転職は責任の放棄を意味することになりますので、自分の意思だけで転職することは難しくなります。とはいえ、そもそも自分の意思で転職しようと思っちゃうような人はここまで上り詰めることはできないのでしょうけれども。


【スペシャリストルート:契約法務コース】


  • 特徴


    契約法務を専門領域にするプレイヤーです。
    ほとんどの法務部員は一定レベル以上の契約法務のスキルを有していることに加え、外部の弁護士との競争が最も激しいコースであることから、将来的に淘汰される可能性が低くない、かなりリスキーな選択肢なのですが、マネージャーになりたくない無資格法務担当者はなぜかこの道を進みがちです。いったい何を考えているんでしょうか
    スペシャリストである以上、英文契約を適切に処理できるスキルは必須であり、また、業法を含む幅広い法律知識の習得が必要になります。
    このコースを選ぶ人は変わり者であることが多く、実際周囲からも変人扱いされがちです。年下のマネージャーから「この人ほんと使いづらいわ・・・」って思われないようにしましょうね。

  • このコースのおすすめポイント


    マネージメント業務から開放されるので、比較的ストレスは少ないはずです。
    突き詰めることが好きな人は、日々の業務が楽しくなるんじゃないかと思います。

  • このコースの厳しい点


    ある年齢を超えてから転職することになった場合、給与が大幅に減ることを覚悟する必要があります。というか、そもそも転職自体が非常に厳しくなります。
    また、スペシャリスト向けの給与テーブルを用意していない会社では、給与の上昇余地は限定的であり、そもそもスペシャリストというより「出世できなかった人」としか見てもらえない可能性があります。
    他のコース以上に幅広い知識を日々インプット&アップデートし続ける必要性が高いので、年齢を重ねて記憶力が衰えたり無理が効かなくなると、比例してパフォーマンスも落ちてしまう可能性がマネージメント系のコースより高いです。


【スペシャリストルート:知財法務コース】


  • 特徴


    産業財産権周りの対応を専門領域にするプレイヤーです。会社によっては、著作権(というか自社著作物のライセンス)も知財部隊が担当していることもありますが、主戦場がそこではないということには違いはありません。また、商標は商標でいろいろあるのでしょうが、商標一本で存在感を出すことは難しいので、やはり知財法務の花形は特許といえるでしょう。
    知財法務においてはインハウスの弁護士の存在感はさほど高くなく、専門資格である弁理士はそもそも保有者が劇的に増加しているような状況でもないので、他のコースと比較すると無資格であることが不利に働く場面は多くはないはずです。他方、特許に関してはエンジニアからの転身組との競争が発生するという点には注意が必要です。(特許の世界ではむしろエンジニア出身の方が本流であることが多い印象です。)
    なお、弁理士試験は法律系資格試験であるという意味でエンジニアより有利なはずなので、このコースを進むのであれば弁理士試験の合格を目指すのも良いでしょう。

  • このコースのおすすめポイント


    スキルのポータビリティが非常に高いため、知財法務の実務経験があることは転職時に有利に働くことが多いです。
    もし弁理士試験に合格することができれば、更に安定感が増すことでしょう。

  • このコースの厳しい点


    特許は登録までかなりの費用が必要になることもあり、知財のスペシャリストを置けるのは一定以上の規模の会社に限られてしまうため、そもそも中小規模の会社に所属していると知財法務スペシャリストを目指すことすらできない事があります。


【スペシャリストルート:コーポレート法務コース】


  • 特徴


    株主総会や取締役会などの事務局業務を専門領域にするプレイヤーです。
    会社法や金商法を始めとした法令以外にも社内規程や慣習などのローカルルールに精通する必要があります。
    ルーチンワークを確実にこなす能力が求められる一方で、ルーチンワークを確実に回すことだけに集中してしまうと、いわゆる「タコツボ化」に陥りやすい点には注意が必要です。あなたの会社にもいませんか?タコツボってるコーポレート法務担当者が。
    開示やインサイダー規制の方面にまで領域を広げることができると、存在感が更に高まることでしょう。

  • このコースのおすすめポイント


    法務マネージャーは株主総会・取締役会の事務局に入ることになるので、法務マネージャーに転身した際にコーポレート法務の経験は必ず役に立つことでしょう。
    経営層との距離が非常に近く、また取締役会の中に入れることもあり、一般社員が触れることができない情報に接する機会を多く得られます。

  • このコースの厳しい点


    法務マネージャーのサポートという位置づけになりがちであり、そうなってしまった場合は物足りなさを感じる方もいるかもしれません。
    どんなに文献等にあたってしっかり作成したコメントも、経営陣の「一応○○先生(お気に入りの弁護士)のコメントも聞いといて」の一言で粉砕されることがあります。(ただ、これはインハウスの弁護士に対しても程度の差こそあれ発生します。)


【別職種ルート:内部統制・監査役(委員)補助者コース】


  • 特徴


    内部監査系職種への転身コースです。
    内部監査において適法性のチェックは避けられないので、法務の経験を十二分に活かすことができることでしょう。
    受け身の監査(問題点の指摘)にとどまらず、監査を通じて各部の業務改善をサポートするという視点で業務にあたるようになると仕事の楽しさがぐっと高まるそうです。

  • このコースのおすすめポイント


    閑職と捉えられている会社もありますが、実は会社全体の情報を俯瞰できる立場から大きな裁量を与えられて業務を遂行できるという意味ではおもしろみのある仕事です。
    特に監査役(委員)補助者については経営側の意思で異動させることが難しいことから、落ち着いて業務にあたりたい人にとっては天国なのかもしれません。
    積極的にこのコースを希望する人はさほど多くないので、競争に晒される心配は少ないでしょう。
    基本的に全社の情報に隈なくアクセスできます。が、やり方を間違えると現場から激しく疎まれるのでご注意を。

  • このコースの厳しい点


    管理系部門の出世コースに組み込まれているような会社は別として、出世・昇進からは遠ざかることになることは覚悟したほうが良いかもしれません。
    監査においては会計・経理の知識が不可欠なので、新たな知識を大量にインプットする必要があります。


【別職種ルート:投資コース】


  • 特徴


    投資部門や投資子会社(CVC)への転身コースです。
    法務としてもM&Aや出資等のケースで事業譲渡契約や株式譲渡契約、合併契約などをチェックする機会はあると思いますが、このコースが想定しているのはむしろ法務にこういった契約のチェックを依頼する側の「投資先を見つけ、投資を実行し、投資後のフォローを行う」職種を想定しています。
    投資担当者をおける会社は非常に限定されており、そもそも所属先が投資担当者をおかない場合には自分の意向だけでこのコースに進むことはできません。また、投資業務は属人性が強いことが多く、ジョブローテーション等による人の入れ替えに消極的なため、投資事業を開始する際にメンバーに入れないと、後から参画することは簡単ではありません。投資事業の本流は現業部門であったり、間接部門でも経営企画・経営管理や財務系であることもこの傾向に拍車をかけます。

  • このコースのおすすめポイント


    投資実行の際にかならず考慮が必要になるリーガルリスクのチェックの際に法務の経験を活かすことが可能です。
    契約法務の経験を通じて「事業のつまづきポイント」に対する感度が鍛えられている方は、そのスキルが大いに役に立つはずです。
    コーポレート法務の経験を通じて様々なコーポレートアクションに関する書面総会・書面役会・登記を処理できる方はいちいち待たせる法務に頼む必要がなくなることから部内で重宝されることでしょう。

  • このコースの厳しい点


    投資先の企業価値を測定する上では経営・財務・会計の知識が不可欠なので、新たな知識を大量にインプットする必要があります。
    業務の性質上、すぐに成果が出るものではなく、また失敗に終わることも多いので、必死に頑張っても良い評価を得られない可能性があります。


【別職種ルート:人事コース】


  • 特徴


    法務のみならず、人事(基本的には総務も)を兼務するコースです。
    管理部門が小規模な会社では、専任の法務を置くことができないため、法務をやりたければこのコースに乗らざるを得ないというケースはよく有ります。
    有資格者はこのような兼務を避ける傾向にあるため競争は厳しくありませんが、会社の成長に合わせて法務を強化することになった場合に外から専任の法務担当者を調達され、総務・人事側に寄せられてしまうことのないようには注意しましょう。

  • このコースのおすすめポイント


    純粋な法務は労働法の知識に乏しいことが少なくないので、労務業務を通じて得られた労働法周りの知識や実務経験は大きな武器になりえます。
    経理側にマネージメント能力に優れた人がいない場合、レアルートのガチマネージメントコースに進める可能性があります。

  • このコースの厳しい点


    人事業務は給与計算、年末調整、採用なども担当すると業務負荷が非常に高くなるので、業務全体に占める法務の割合が低下しがちです。また、法務専任ではないことから、経費を使った書籍の購入やセミナーの受講などがすんなり認められないケースもありえます(必要なの?と聞かれてしまう。)。
    「法務部」という肩書が無い場合、法務専任で転職する際に経歴が不利に作用してしまう場合があります。
    「法務と、あとは人事や総務の仕事も一部やってもらいたいと思ってます。」と聞いていたのに、実際は法務の業務割合は20%くらいというケースはすくなくありません。こんなときは、ぶつくさ言わずに法務としての法務業務を開拓し、仕事を獲得していくしかありません。


といったところで、明日は柴田先生です〜。