2017年08月

エンジニアとのミーティングでFacebookのBSD+PATENTSライセンスについての当社の対応方針を質問されたのですが、その時点ではこの騒動を全く認識しておらず、「えっ、初耳です」的な、法務としてはなんとも情けないリアクションをしてしまうことになったので、ちょっと調べてみました。

という書き出しでことの概要をまとめようと思ったのですが、マンサバにきっちりまとめられていたので概要はそちらを参照していただくとして、ここではこのライセンスとどう向き合うべきかを書いてみたいと思います。

【OSSと特許の関係】
ライセンス条件に従っているにも関わらずOSSの利用が第三者の権利侵害を構成するというという状況にしっくりこない方もいらっしゃるかもしれませんが、仮にOSSが提供している機能について当該OSSと全く無関係の第三者が特許権を保有していた場合、当該OSSの利用は特許権侵害となる可能性が高いはずです。
もし特許権者に悪意があったら、協力者の顔をして開発中のOSSに自分の特許権を持つ技術を組み込んでしまい、広く普及したところで特許権に基づく主張を始めるという戦術も理論上は取ることが可能ですらあります。(Apache License2.0ではContributorによる特許ライセンスが明記されていますが、第三者を通じて特許権侵害コードを組み込むことで容易に回避できるので、悪意のある特許権者に対してはあまり有効な対抗策にはならないと思っています。)

【BSD+PATENTSライセンスの意味】
BSDLでソースコード及びバイナリコードの利用がざっくり許諾されていますが、同時にPATENTSで特許権のライセンスが特に記載されていることからすると、BSD+PATENTSライセンスのBSDでは特許権はライセンスされていないと考えるのが自然だと思います。
逆に言えば、当該OSSに特許権を有していない場合は、BSD+PATENTSライセンスとBSDLに違いはないということでもあります。
だとすると、BSD+PATENTSライセンスを敢えて選択し、多くの変更要請を受けながらもこれを維持したFacebookは、何らかの特許権を当該OSS(の機能)に関して保有しているのだろうということが推測できます。
そして、もしFacebookが当該OSSに関して特許権を保有している場合は、そっくり同じ機能を持つ別のソフトウェアを当該OSSに依拠せずに制作すると、当該別のソフトウェアはFacebookの特許権を侵害している可能性が高い、ということになります。

【BSD+PATENTSライセンスを採用したOSSを利用するのは危険なのか】
BSD+PATENTSライセンスを採用しているOSS、例えばReact.jsを利用している場合、PATENTSの条件により、自社や自社の関連会社(subsidiaries/affiliates)や代理店(agents)がFacebookに対して特許権に基づく主張をすると自動的にReact.jsの特許権ライセンスが終了するということになります。
これを受けて「Facebookの競合他社やFacebookに特許権の主張をする可能性がある会社はReact.jsの使用を差し止めるべき」という指摘がなされているようですが、React.jsについてFacebookがどのような特許権を保有しているのかを把握していない段階でこのような対応をするのはやり過ぎではないかと思います。(使っても使わなくても開発に影響がないライブラリであるなら別ですが、React.jsはそういった種類のものではないと理解しています。)
というのも、もしReact.jsの利用を差し控えて、例えば自社で必要な機能を開発したり、他のライブラリから必要な機能を調達したとしても、それがFacebookのReact.js関連特許に抵触している場合は、結局特許権侵害になってしまうことには代わりはないからです(React.jsを使う限りはPATENTSに基づいてライセンスを受けられますが、そうでない場合はライセンスのない実施にしかならない)。
そもそも、PATENTSに基づくライセンスはFacebookに特許権の主張をするまで終了しないので、もしFacebookに対して特許権の主張ができそうな状態になったら、そのタイミングで初めてReact.jsの利用停止を検討すれば良いだけのことです。
さらに言えば、もしFacebookがReact.jsに関する特許権を一切保有していなかったとしたら、特許権ライセンスが終了しても、当然のことながらReact.jsの利用は妨げられません(そりゃそうだ)
このような前提に鑑みると、BSD+PATENTSライセンスへの強い反発は、損得勘定というより、優越的地位を振りかざして非合理的な主張を押し付けるFacebookへの抗議という側面が強く、その利用は別段危険なものではない、というのが現時点における私の感触です。

【まとめとお願い】
BSD+PATENTSライセンスの存在をしったのもつい先日のことで、リサーチもウェブ上の資料を当たっただけなので、僕自身の特許に対する知見の欠如も相まって上記の内容に重大な誤りや勘違いが含まれている可能性があります。
にも関わらずこうして記事に書いたのは、偏に「間違いがあれば早めに気づきたい」という一心によるものなので、ぜひ間違っている(ようにみえる)ところがあれば、コメントやTwitter等でご指摘頂けるとうれしいです。

ではでは
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今月のビジネス法務(2017年10月号)の特集1は「法務部の生産性向上」ということで、定期購読している雑誌をなかなか読まない僕には珍しく速攻でチェックしました。


・・・が。


ぜーんぜん、生産性向上についての記事が載ってない!!

いや、全然ではなかった。
GMOペパボの株主総会の準備をガチのスクラムでやってみた件はちゃんと生産性向上について書かれていたし、雛形運用のようなありふれたものではあるけど業務の効率化策に関する記載もあったので、正確には

GMOペパボ以外は生産性向上のヒントになる記事はなかった

だった。


いやね、どの記事もいいこと書いてあるんです。これはほんと。ただ、その多くは業務品質の向上策についてのものなんですよね。
でも、生産性ってのは「インプットに対するアウトプットの比率」なので、業務品質の向上、つまりアウトプットの質の向上についてだけ触れるだけでは生産性向上について書いたことにはならないと思うんです。
また、業務効率化は付加価値の低下を最低限に留めることが当然の前提にされているはずなので生産性の向上策であることは間違いないんですけど、程度の差こそあれ業務の効率化には既にどのチームもある程度は取り組んでいるので、それによって目に見えて生産性が向上することはあまり期待はできません。

そもそも法務は生み出す付加価値について他者の評価にさらされる機会が他の職種に比べて極端に少ないことから、仮に付加価値をあまり生み出していなくても、そのことを咎められにくい職種の一つであるといえます。
加えて、法務以外の部署にとってリーガルリスクを敢えて放置するという判断は採りづらいので、生産性が低い(投入する労働力とのバランスが崩れている)付加価値向上策であっても、それを外野から非難するのは困難であることもこの傾向に拍車をかけます。
こういった事情を背景に、(最近はだいぶましになってきているとは思いますが)未だにセレモニーに毛が生えたようなNDAに対して丹念な修正を加えたり、実務上のリスクが極めて低い事案に時間を割いてきっちり対応したりするといった、乏しい付加価値に対する労働力の投入が普通に行われているように感じています。

そんな状況下で「法務部の生産性向上」が特集されているということだったのでとても楽しみにしていたのですが・・・。
もっと正面から「生産性」の向上に向き合った他社事例を読みたかったな、と残念に思いました。


なお、繰り返しになりますが、この特集が「生産性向上」ではなく、「業務品質の向上」をテーマにしたものであれば、普通に良い特集だったとは思います。

ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
最近、とあるできごとをきっかけに、週に1人のペースで1on1をするようになったので、そのクオリティを上げるヒントが得られればという軽い気持ちで読んでみたところ、想像以上に良かった一冊。

マネージャーの役割
マネージャーの役割が、一番粗い粒度では「チーム全体のパフォーマンスを最大化すること」であることについては多分それほど異論はないと思うんだけど、それを細かく砕いた時にどのような表現になるのかは千差万別。
ある人は「部下の給与を上げること」と表現し、また、「注力すべきこととやらないことを決めること」と表現する方もいます。
この本では、ヤフーでは、部下を成長させることをマネージャーの資格の一つとしていることを明らかにしています。
役割ではなく、資格ということはつまり、それができなければ管理職から外れなければならないということであり、実際にこの資格を欠いていることを理由に管理職の任を解かれた人もいるとのこと。

大企業だからできること?
社員の成長への取り組みについては、「ヤフーのような大きな企業、バッファのある企業だからそのなことが言える」といういう方は、特にベンチャー界隈では少なくないと思います。
ただ、本書によると、ヤフーにおいても社員の成長のために1on1を義務付ける、という施策の導入に対しては「1on1に割く時間の余裕はない」「意味があるのか?」といった反発があったそうです。
つまり、社員の成長への取り組みは、企業が充分に成長・成熟したら支障なく現場に受け入れられるようなものではなく、どこまでいっても人事と、そして何より経営陣の覚悟とポリシーに依るところが大きいということなのだと思います。
ちなみに、本書に収録されているQ&Aにおいて、「1on1に時間を取られて自分の仕事が終わらない」という悩みに対し、「上司の仕事は部下が活躍する舞台を整えることであり、1on1はそのための強力な手段。つまり1on1こそがあなたの仕事」との回答がなされています。
いやはや冷徹。

成長を待てない?
また、ベンチャーでよく言われることに、「成長には時間がかかる、待っていられない」という話もあります。
しかし、この点は本書では別段触れられていませんが、人が本当に成長するときは、何かをきっかけにして爆発的に伸びるものであり、そもそも成長は待つようなものではないと僕は思います。
マネージャーに必要なのは待つことではなく、成長の爆発を起こすために起爆装置を起動し続けることで、それこそがマネージャーの役割だと思うのです。
その意味で、座して待った結果部下がなかなか成長しないことは、誰より上司が恥ずべきことであり、「成長を待っていられない」なんてことは口が裂けても言えないのでは、とも思っています。

まとめ
本書の中で繰り返し言及されているヤフー人事の基本方針「才能と情熱を解き放つ」に対する、所詮パフォーマンスでしょ、売上の方が大切でしょ、という仮想の反論を前に、「だからこそ人事が理想を語らなければならない。人事が理想を語らなければ、いったい誰が語るのか」と言い切れるところにヤフーの強さの源泉を垣間見た気がしました。

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