2019年11月

法務を飛び出て管理部門を管掌する取締役にチャレンジしたタイミングでちょうどBusiness Lawyersの第6回 一人法務からバックオフィスの責任者へ - 法務のスキルでキャリアを拡大という記事を拝見して以来、機会があったら一度中根さんのお話をお伺いしたいとずっと思っていたところ、サイボウズのむつみめもさんにお繋ぎいただき、お会いするチャンスをいただくことができました。IT法務互助会ばんざい!

上記記事にもある通り、中根さんは現在サイボウズのバックオフィスを統括する責任者になられており、法務からガチマネージメントコースへと進まれた稀有な方のお一人ということもあって、お話をお伺いするにうちに、同じような役割から早々と撤退した私自身が抱えていた反省点や悩みがスルスルと解きほぐされていくような(そういった表現が適切かはわからないのですが)とても心地よい1時間でした。中根さんの人間的な魅力、人を惹きつける力の強さはすごいので、転職を考えている法務の方は、一度サイボウズさんの募集にエントリーすることをおすすめします。(2019/11/22現在、サイボウズさんは契約担当の法務を募集されています

中根さんのキャリアについても色々お伺いしたのですが、上記記事を始めとしたウェブメディアに詳しく記載されているので、ここではお伺いしたお話の中で、極々個人的に特に心に残ったポイントに絞って触れたいと思います。

「M&Aの過程でDDをする際、財務・経理面ではわからない言葉や概念がたくさんでてきて、それを片っ端から経理の同僚に聞いて教えてもらったんです。」


M&Aに際しては、大きく分けて事業、法務、人事、財務・経理といった領域でDDを行うことになりますが、特に一人法務の会社では法務DDだけで手一杯になり、他領域について興味関心を払う余裕がないのが通常なのではないかと思います。激務の中、法務に閉じることなく他領域にも好奇心を持つ姿勢で日々の業務にあたっていらっしゃったことは、領域を広げる際に何よりの力になったのではないかと想像しました。
「物怖じせず飛び込んでいく性格なんです」と軽やかに笑っておっしゃる姿を見て、大変なことを自然体でやれる凄みを感じるとともに、1年前の自分の蹉跌の原因の一つは、法務に閉じていた過去の自分にあったのだということを改めて自覚しました。普段からトレーニングしていなければ、いきなりトラックに立っても走れるわけないんですよね。当然のことではありますが、法務としてそれなりにこなせるようになったことで、この当たり前を忘れてしまっていたのかもしれません。いずれは法務以外の領域にも、という想いを持っている方は、明日から他部署の業務に首を突っ込んでいった方がいいですよ。その時が来てからじゃ、遅いんですからね(自戒)

「法務部長を後任に引き継ぐとき『ものすごく楽しい仕事なんだよ。本当に。すごく楽しいから、楽しんでね。』って言って引き継いだんです。」


後任の立場からすると掛け値無しで最高の引き継ぎコメントだな、と思うとともに、中根さんのような方にとっても、ステージを一段上げるということは、いわゆるコンフォートゾーンを飛び出るということに他ならないのだという事実を再確認しました。
実際、しっかり回せている実感をもてているときの法務部長って、最高に楽しい仕事だと思うんですよね。難しい業務がどんどん降ってくるのでやりがいも学びもあり、成長している実感も得やすいですから。そんな業務を後任に託して新しいチャレンジをする選択肢を選ぶ際の複雑な気持ちは、「昇進おめでとうございます」という文脈には乗らない重要な要素だなと思いました。

「私は、この社会に対して個人的に抱いている問題意識があるんです。怒りと言ってもいい強さの問題意識。そしてこの会社においては、私はその問題の解決に取り組める立場にいる。」


今回、一番ハッとしたご発言がこれでした。
昇進するということは裁量が大きくなるということであり、それはつまり自分の影響力が大きくなるということを意味します。例えば、最近もまた例の報告書がきっかけで話題になっている法務部門のあるべき姿について言えば、Twitterであれこれ論評しているだけでは社会へのインパクトはほぼ皆無です。しかし、もしあなたが法務部門の責任者であれば、少なくともその会社の法務部門のあり方は、あなた次第でかなりの程度変えることは可能なはずであり、ある会社が変わるということは、その程度において社会へ影響を及ぼしていると言えます。決して大きなインパクトではありませんが、もっともらしいことを好きなように言い放っているだけの外野とは雲泥の差であることは間違いありません。
敢えて波風の立つ言い方をするならば、「ぼくのかんがえたさいきょうのほうむぶ」的な無責任さの対極にある強い当事者意識を感じた瞬間でした。


なお、上記は、1時間という限られた時間の中で多岐にわたる話題をお伺いする中で私自身が感じたことを記載したものであり、中根さんのご見解とは一致しない可能性がありますので、その点はご留意ください(カギカッコ内も録音等をしていない私の記憶からの引用なので、中根さんのご発言を正確引用したものではありません)

それでは!
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以前、無資格法務のキャリアパスについてというエントリーを書いたのですが、そちらをご覧頂いたクラウドサインの事業責任者の橘さんからこのようなコメントを頂き、なるほど、と思いながらも実感がなかったため、何のリアクションもできずにいました。
再転職後のリハビリも概ね終わって目の前の仕事以外のことを考える気持ちの余裕が生まれてきたこともあり、改めて橘さんに詳しいお話をお伺いしたい旨をお願いしたところ、ご快諾いただけました。ご多用の所、個人的な質問にも関わらず快くご対応いただき、本当にありがとうございます。
橘さんからお伺いしたお話は非常に示唆に富むものであり、私の中だけに留め置くにはあまりにもったいないと感じたため、橘さんのご了解のもと、会話の一部と、そこから私が考えたことをシェアしたいと思います。


【片岡】法務がバックオフィスからビジネスサイドに移ろうと思ったときのキャリアにどのようなものがあるのでしょうか。
【橘】例えば「法務業務の効率化に関するコンサルティング」という役割は、弁護士ドットコム内で既にチームを既に組成しています。具体的には、クラウドサインや、当社の投資先のプロダクトであるhubbleやLAWGUEなどを使って業務の最適化を支援するサービスです。
【片岡】法務業務の効率化のオーダーは、法務から出るのでしょうか?それとも、法務を所管する役員から出るのでしょうか?私の感覚では、法務が自ら業務の効率化にコストをかけるイメージがないのですが。
【橘】法務部門の責任者からのオーダーが多いですね。最近どんどん出てきている各種リーガルテックサービスを活用すれば、これまで抱えていた問題を解決できるのではないか、という思いを背景に、具体的なノウハウを知りたいというニーズがあるのを感じます。
【片岡】スキルとしてはどういったものが必要になるのでしょうか?
【橘】各社が抱えている個別具体的な課題を抽象化したうえで解決法を模索するスキルは必要になると思います。そのスキルを持っていれば、経験を積めば積むほど抽象化した課題とその解決策をストックすることができ、大きな武器になりえます。
リーガルテックという言葉は独り歩きしがちですが、AIが人を代替する、といった一足飛びの目標を掲げるプロダクトにではなく、日々の業務を支援する地に足のついたプロダクトに目を向けると、それを使うか否かで業務の品質と効率に格段の差が出るサービスは既に数多く登場してきています。しかし、急速に多種多様なサービスが登場していることから何をどう使えば良いのかの判断がつかず、結局すべてを見送っているという方も少なくないのではないでしょうか。この点について、各社の悩みに応じた最適解をズバッと示してくれるのであれば、たしかに魅力があるな、と感じます。(僕自身も知りたい。)
そして、難しい仕事だとは思いますが、この仕事を数年経験したら、ものすごい質と量の知見を蓄えられているのだろうと思います。ぜひ、そのエッセンスを書籍化してほしい!


【片岡】そのようなサービスに法務出身者が携わる意義はあるのでしょうか?むしろ、「法務の常識」に囚われてゼロベースのベストな施策を検討できず、ベターな(ありきたりな)施策を提案してしまう恐れはないでしょうか。
【橘】出身がどこかではなく、能力の問題でしょう。法務の常識を知りながら、それに囚われない人は確実にいます。例えば、【具体的な人名複数名】さんなどは、やろうと思えばすぐにでもやれると思います。
【片岡】そういったエクストリームな方であれば、確かにできるだろうと思えます。ただ・・・間違いなく採用できないですよね(笑)
【橘】えぇ、できないでしょうね。その意味で、ただ能力的にやれるというだけでなく、受け入れる会社の求人条件と合致する必要があります。そして、求人条件は、取るリスクによって変わるものでもあります。
【片岡】といいますと?
【橘】具体的に言えば、最初の一人としてリスクをとって入ってくる人に出せる報酬と、その他大勢とでは違うということです。また、逆に数年前であれば当社でもそのようなポジションは募集していませんでした。自分がチャレンジできると思ったタイミングで、受け入れる会社側も同じようにチャレンジしたいと思っているとは限りません。ある意味でタイミングは、他の要素よりずっと重要なのです。
無資格の法務パーソンにとって、これからのキャリア事情は今より厳しくなることはあっても、楽になることはないはずです。そんな中でのキャリアパスの一つとしてビジネスサイドへの転身という選択肢は魅力的な輝きを放つ一方で、これまで積み上げてきた経験をゼロリセットせざるを得ない苦しさも双子の片割れとして常に孕みます。そのような中で法務のキャリアを活かすことができる転身があるぞと言われると身を乗り出したくなる人も多いのではないでしょうか。とはいえ、身を乗り出したほとんどの方も、しばらくするともっともらしい理由を口にして首をすぼめてしまうのもまた事実です。
ある分野で第一人者になるもっとも手っ取り早い方法は、誰よりも早く初めて、誰よりも長く続けることなのですが、実のところ何かを誰よりも早く始めることができるチャンスはそう多くありません。もしかすると、リーガルテックの勃興期に居合わせた我々は、「誰よりも早く始める」チャンスを持っているのかもしれません。


【片岡】これからの法務と、これまでの法務の違いはどのような点に現れると思われますか?
【橘】一つあるのが、ツールを使いこなせることが明確な付加価値になる時代はすぐにやってくると思います。例えば、セールスの担当がセールスフォースの正しい使い方を理解していることは現在間違いなく付加価値になっていますし、マーケも同様です。法務も同じように各種ツールを使いこなせることが付加価値になる、または必要条件になるという時代は近く訪れると思います。
一時期、AIに仕事を奪われる職種、みたいな言説が世を賑わしたこともありましたが、考えてみると、ツールを使いこなす(ことで生産性をブーストした)人が、そうできない人の仕事を奪う世界に変わるのは、AIが人の仕事を奪う未来よりもずっと早いようのだろうと思います。
また、勘違いしてはいけないと思ったのは、現時点で有効な特定のツールを使えるかどうかという点は大きなポイントではなく、新しいやり方に合わせられる柔軟性・リテラシーと、より良いやり方をいち早くキャッチするアンテナの感度の方が重要であるということです。むしろ、特定のツールに固執してしまい、よりよい別のやり方に移行できなければ、それは「使いこなしている」とは言えないわけですから。

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上記以外にも様々なお話をお伺いし、大いに刺激を頂いた濃密な1時間でした。
やっぱり、最前線で道を切り拓いている方のお話は、最高におもしろいということを再確認しました。
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はじめに


現職では久しぶりに一人法務に戻ったこともあり、1から10まで自分でやってきたのですが、良い方がいたらアルバイトであればアシスタントを雇えることになり、bosyu経由で司法試験受験生の方を採用し、先月から稼働を開始していただいています。
実務としては反社チェック、契約書保管を始めとしたマニュアルベースの業務から、契約書の一次チェック、リサーチ、マニュアルのリバイスといった一歩踏み込んだ業務まで担当してもらっているのですが、当初の想像を遥かに超えたスピードと品質でバリバリ活躍してくれているので、(n=1なので当社に来ていただいた方が特別に良い方だったという可能性はあるものの)皆さんにもぜひおすすめしたいと思い、久しぶりにブログを書くことにしました。

司法試験受験生をアルバイト雇用するメリット


正社員よりも気軽に雇える
1人や2人で回している小規模な法務において、「もうひとり雇う」ことのハードルは非常に高いもので、それ故にギリギリまで現有戦力で戦い、疲弊しきって倒れる寸前まで採用活動を開始しないケースは少なくありません。というか、そうなるのが普通とすら言えるかもしれません。
ところが、一口に法務といってもスキルセットやマインドは様々であり、そう簡単にピッタリの人材と出会うことはできません。また、正社員を雇用するとなると、スキルだけでなくカルチャーフィットを見る必要があったり、「外すわけにはいかない」というプレッシャーから選考も保守的になりがちです。
他方、アルバイトであれば、社内手続きとしても、採用側の気持ちとしても、正社員と比べるとフットワーク軽く採用することができます。10人が11人になるときはある程度選択の幅を取れたり、妥協が許容されるところもありますが、小規模法務における増員においてはそういうわけにもいかないという事情に鑑みても、1人月未満の工数をアルバイトの方に提供してもらうことは滑らかな組織拡大のためにとても有用です。

ある程度安心して秘密情報を取り扱わせることができる
法務は秘密情報を取扱えないと仕事にならない部署ですが、何のバックグラウンドもない短期雇用の方に秘密情報を取扱わせることには躊躇してしまい、これが法務におけるアルバイト雇用のハードルの一つになっています。
この点、司法試験受験生は、秘密保持義務の意味を正確に理解できることが期待できることに加え、仮に秘密情報を漏洩してしまうと自分の将来を完全に棒に振ることになるわけで、カジュアルな秘密情報の漏洩も含めると、むしろ他部署の正社員よりも意識が高い可能性があり、秘密情報の取扱いを伴う業務を担当していただきやすいといえます。

被用者にとってもメリットがある
司法試験受験生が仕事をする際、ネックになることの一つに「勉強・試験との両立」があります。
その点、法務部員は試験に対する理解があり、いつ頃ピークが来るのか、どのような勉強しなければならないのか、また、どの程度のプレッシャーが掛かっているのかという点について、説明しなくてもわかってもらえる(それゆえに日程調整も気軽に相談できる)という点は、かなりのメリットになるのではないかと思います。
また、業務内容としても、試験科目とは関連が薄いことが多いとはいえ、法律を全く使わない業務よりも司法試験と親和性が高いのは間違いないはずです。何より、合格後に弁護士になる場合、法律事務所に勤務するにせよインハウスになるにせよ、法務部門の実務を肌感で掴んでいることは、財産になるはずです。

日本語能力が高い
ちゃんとした教育を受けた人でも、ちゃんとした文章を書けるとは限りません。
その点、論文試験の勉強を通じて文章で主張を伝えるトレーニングをしている司法試験受験生は、伝わる文章を書けることが期待できます。
法務であれば当たり前にもっているスキルですが、これをアルバイトの方に求めることができるということは非常に大きなアドバンテージだと思います。

空き時間が無駄にならない
優秀な方であればあるほど、渡した仕事をどんどん処理してしまい、「次に何をやればいいでしょうか?」という状態が生まれがちです。
普通のアルバイトであれば困ったことになってしまうのですが、司法試験受験生の場合は「この本読んでおいて」と、業務上必要になる法律実務書のインプットをしてもらうことが可能で、実務的にはこれはものすごく楽です。

良い採用をするために


採用のタイミングは、合格発表(正確には不合格発表)直後がお勧めです。
また、合格に近い方、具体的には来年合格できそうな方に来ていただく方がお互いハッピーになりやすいと思います。(まだまだこれからという方は、仕事にパワーを割くとどっちつかずになってしまうおそれがある)
採用チャネルが問題ですが、僕は会社の許可をとって自分のtwitterアカウントでbosyuを使ってダイレクトリクルーティングをしました。これは良いチャネルがあれば逆に聞きたいところです。




ではでは
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