「いえ、ですから、弊社があえてソフトウェアも目的物に含めることをご提案したのは、そうすることが一番単純に目的を達成できると判断したからですので、そのことは」
ここまでしゃべったところでふと視界の端に違和感を感じた。
なんだろう、些細なことだけれど、確実に良くないこと。
そんな小さな違和感に気をとられたせいで、結論を言う前にさっくりと話を遮られてしまった。
「えぇえぇ、それは私どもとしても十分認識しておるところでして、ただ一方でですね、」

あぁ、くそ。だいたい、このおっさんのしゃべってる内容はすんごく意味がわかりづらいんだよ。参ったな。
と思って視線を下に落とすと、さっき感じた違和感の正体が明らかになった。

そう、例の、あれ。

チャック全開

だったんだよ。


もうね、気づいた瞬間、すごい勢いで前かがみ。
そんで、ネクタイでカモフラージュ。これね。
気づいてから1秒経ってないスピーディーな対策。さすが、できる男は違う。

でも、問題なのは、「気づいてから」ってことなんだよな。
もしかしたら、もう既に僕を除いたこの応接室にいる人全員は、既に知ってるんじゃないだろうか。
そんで、「あいつ、チャック全開で熱弁かよ。プゲラ」とか思ってるんじゃないだろうか。
あぁ、なんだよ、よりによっ

「と考えているのですが、いかがでしょうか。」

うわ、やべ。こっち見てるよ。
チャックに気を取られてまったく話聞いてなかったんだけど。

「えぇ、そうですね・・・いかがですか?」
ここは、とりあえず調達部門にボールを投げるしかない。
頼む、うまく切り返してくれ。

「え、あ、うーん。いや、うーん。確かにそれでもいいかもしれませんねぇ。」
・・・おいこら、お前。
「いいかもしれませんねぇ」じゃねぇよ。
30分前の打ち合わせでは、「ガツンと言いますので。」とか言ってただろうが。ふざけんな。

こうなったら、とりあえずチャックを元に戻すことに集中するしかない。
売買の目的物の範囲については、とりあえず忘れよう。

そーっと、そーっと。誰にも気づかれないように股間の金具に右手をかけて。
よしよし誰も見てないぞ。
今のうちに、そーっと、そーっと、引っ張り挙げる・・・ぞ・・・あぁ、くそ。
ソファーに深く座ってるせいで、上に力をかけてもさっぱりチャックが閉まらん。
これじゃ、単に股間がモッコリしたように見えるようになっただけだ。バカか俺は。

でも、こんなことであきらめるわけにはいかない。
右手だけでミッションをコンプリートできないのであれば、左手の助けを借りればいいだけのこと。
今度は左手をそーっと、そーっと。
よし、つまんだぞ。次は右手を上にあg

「では、続いて次のページの2の(2)についてですが」


ふ・ざ・け・ん・な


今ページをめくれって言うのか?
このベストポジションを放棄しろっていうのか?
何の権利があって、そんな無茶を言うんだ?
自分がどうゆうことを口に出しているか、わかってんのか?

・・・しかし、ここでポジションの維持にこだわると、むしろ不自然さが際立ってしまう。
仕方がない。ここは素直に薪に臥せようではないか。

どれ、2の(2)を見ると・・・うわ、どうでもいいことが書いてあるな。なんだこりゃ。
俺のチャックとどっちが大切か、考えてみればわかるだろ。
ちっとは気を使えよ。気を。まったk

(ヴィーヴィーヴィー)

き、
キタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!!

神降臨。
このタイミングで内線が来るとは!

難しい顔をしてそそくさと席を立ち、話をしながらチャックを閉め、席に戻る。
応接室Bを席巻した長くそして厳しい戦いは、唐突に、だがしかし確実に、今終わりを告げたのである。



【エピローグ】
 打ち合わせが終わり、調達部門の人から一言
 「あれ、いつの間にかチャック閉まってましたね。あはは。」
 ・・・やっぱ、ばれてたよ、ママン・・・
 (´・ω・`)
 (´・ω・,';,';,',
 (´・ω,';,';,',
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