公園に着いた途端、娘が噴水に向かって駆け出す。
妻は「あんまり急いだら転ぶよ」と、注意する。
娘は走りながら「はーい」と応える。

木陰のベンチに座ると、アブラゼミの鳴き声に全身が包まれる。
コンビニで買ったビールを開ける。
”ぷしゅ”

鳩が3羽、遠巻きにこちらを見ている。
ビールを一口飲む。
鳩はまだこちらを見ている。

「暑いね」と言うと、「うん、夏だね」と、妻が応える。
こちらを見ている鳩は、5羽になった。
アブラゼミは、相変わらず鳴いている。

ジジジジジジ・・・・

「ねぇ。」
「ん?」
「お昼、なに食べたい?」
「何があるの?」
「何でも。」
「じゃあ、そばがいいな。」
「そばね。わかった。」
「肉のやつね。」
「うん。肉のやつね。」

ジジジジジジ・・・・

「ねぇ。」
「ん?」
「しあわせってさ。」
「うん。」
「しあわせってさ、きっとこういうことだと思うんだ。」
「こういうことって?」
「今みたいなこと。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
「ふーん。」

ジジジジジジ・・・・

「ねぇ。」
「ん?」
「すごく安上がりだよね。」
「お昼が?」
「それもあるけど…しあわせになることが。」
「うん。まあね。」
「ねぇ。」
「ん?」
「それっていいことだよね。」
「うん。いいことだよ。きっと。」
「そうだよね。」
「うん。そうだよ。」

ジジジジジジ・・・・