1.はじめに
BtoCの契約には消費者契約法という法律が適用され、その消費者契約法の中には「消費者に一方的に不利な条件は無効になる」という規定が存在しています。
そして、無効とされるケースの一つとして、事業者の不法行為や、事業者が義務を果たさなかったことによって消費者に生じた損害の賠償責任について
A. 全部免責する条項
B. 事業者側に故意または重過失があるケースで一部を免責する条項
が定められています。(消費者契約法第8条1項1号〜4号

この消費者契約法の制限は、仮に消費者が同意していたとしても覆せない性質のものであるため、避けて通ることはできないのですが、ウェブサービスにおいては多くのユーザーから薄く広く売り上げを上げるモデルを採ることが通常です。そこで、事業者としてはユーザーによる損害賠償請求からは極力逃れようとがんばるわけです。
そこで今回のエントリーでは、有名どころのウェブサービスがどうやって消費者契約法に対応しているかについて、実例を見ていこうと思います。

2.他社の実例
GREEhttp://gree.jp/?mode=doc&act=misc&page=terms
9-2 (略)また、ユーザーは、グリーに故意または重過失がある場合を除き、いかなる場合においても、(i) かかる損害賠償の対象となる損害が、グリーの責に帰すべき事由に起因して現実に発生した、直接かつ通常の範囲の損害に限定されること、および(ii)グリーがユーザーに対して賠償する損害の累積額は、グリーが本サービスに関連してユーザーから支払を受けた金銭の合計額を上限とすることに同意します。

GREEのスタンスは、
1.損害賠償の範囲を直接損害・通常損害に限定
2.ユーザーが支払った金銭の合計額を損害賠償の上限として設定
という限定をかけつつ、
3.上記1&2の限定は、故意または重過失がある場合には適用しない
という構造で、消費者契約法第8条1項の制限ギリギリを狙っています。
消費者契約法にヒットする部分を除いて制限をかけるというオーソドックスなスタイルですが、GREEは基本無料のサービスであり、無料でGREEを利用しているユーザーにとっては本項が「A. 全部免責」となってしまう点がどう判断されるのかやや気になるところではあります。


mobgehttp://yahoo-mbga.jp/page/kiyaku/index2.html
第12条
4 本規約において当社の責任について規定していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します。
5 当社は、当社の故意または重大な過失によりモバゲー会員に損害を与えた場合には、その損害を賠償します。

mobageのスタンスは、
1.DeNAの故意または重大な過失により会員に損害を与えた場合には損害を賠償する
という原則を5項で規定しつつ、
2.DeNAの責任について規定がない場合は1万円を損害賠償の上限として設定
という制限を4項でかけてます。
5項が「DeNAの責任について規定がある場合」に該当するため、GREEと同様の消費者契約法にヒットする部分を除いて制限をかけるというオーソドックスなスタイルと言えると思います。
しかし、
・DeNAの規約の12条4項が除外対象としているのは「規約に当社の責任について規定がない場合」であって5項以外も上限が外れてしまう場合が文理上はあり得るという点、
・12条5項は故意・重過失時の責任限定を明示的には排除していないため、他の条項に損害賠償責任の免責が規定されていた場合に「故意・重過失時に責任が限定されている」と解釈される可能性が文理上はあり得るという点
で、やや危うさを感じました。

LINEhttp://line.naver.jp/terms/ja/
14.2. 当社は、本サービスに起因してお客様に生じたあらゆる損害について一切の責任を負いません。ただし、本サービスに関する当社とお客様との間の契約(本規約を含みます。)が消費者契約法に定める消費者契約となる場合、この免責規定は適用されません。
14.3. 上記14.2.ただし書に定める場合であっても、当社は、当社の過失(重過失を除きます。)による債務不履行または不法行為によりお客様に生じた損害のうち特別な事情から生じた損害(当社またはお客様が損害発生につき予見し、または予見し得た場合を含みます。)について一切の責任を負いません。また、当社の過失(重過失を除きます。)による債務不履行または不法行為によりお客様に生じた損害の賠償は、お客様から当該損害が発生した月に受領した利用料の額を上限とします。

LINEは、GREE及びmobageと異なり、
1.最初に全部免責としたうえで、
2.消費者契約法が適用される場合に上記の全部免責を外し、
3.さらに消費者契約法が適用される場合において、
 (1)過失(重過失を除く)によって生じた特別損害を賠償対象から外し、
 (2)損害発生月の利用料の金額を損害賠償の上限額として設定
するというスタイルを採っています。
LINEも基本無料なので、3(2)について、無料で利用しているユーザーにとっては事業者の全部免責になってしまうという点がやや気になります。

Yahoo! Japanhttp://docs.yahoo.co.jp/docs/info/terms/chapter1.html#cf1st
13.免責事項
当社の債務不履行責任は、当社の故意または重過失によらない場合には免責されるものとします。

なお、お客様との本利用規約に基づく当社のサービスのご利用に関する契約が消費者契約法に定める消費者契約に該当する場合、上記の免責は適用されないものとし、当社は、当社の故意・重過失に起因する場合を除き、通常生じうる損害の範囲内で、かつ、有料サービスにおいては代金額(継続的なサービスの場合は1か月分相当額)を上限として損害賠償責任を負うものとします。

Yahooは、
1.故意・重過失によらない場合は債務不履行責任について免責
と定めつつ、
2.消費者契約法が適用される場合に上記の免責を外し、
3.消費者契約法が適用される場合において
 (1)故意・重過失時を除いて損害賠償の範囲を通常損害に限定し、
 (2)故意・重過失時を除いて、有料サービスに関しては代金額を損害賠償の上限として設定
するとしています。
不法行為責任は免責の対象とせず、また消費者契約法が適用されない場合にも故意・重過失時の免責を放棄している点が特徴的です。
また、金額限定を有料サービスに限定することにより、GREEやLINEの「無料ユーザーはどうなるんだ?」という疑問も回避しています。

3.どうやって消費者契約法に対応すればいいのか
事業者の債務不履行と不法行為に基づく損害賠償責任の免責に関しては、
1.事業者に故意・重過失がある場合は事業者の損害賠償責任を免責しないことを明記する
2.事業者に軽過失(重過失でない過失)がある場合は、損害賠償の範囲を限定し、上限金額を設定する
の2段構えで対応するのが最もスタンダードな対応です。
なお、消費者契約法には、「消費者の利益を一方的に害する条項は無効」というキャッチオール規定(同法第10条)が存在しており、また、そもそも重大な事故が発生した場合に免責規定で損害賠償請求をすべて突っぱねることはレピュテーションが激しく傷ついてしまう可能性も高いので、特に有料サービスで、かつトラブル発生時には利用者に損害が生じることが見込まれるケースでは、免責でがんばるよりも、賠償責任保険やシステム上の手当てでがんばる方がベターな場合もあるという点には注意が必要かもしれません。

4.話は変わりますが
4/10に「シード・アーリースタートアップのためのウェブサービスを支える「利用規約」の基本」というイベントが開催されるのですが、このイベントにパネリストとして登壇してきます。
このブログをご覧になっている方でその属性にヒットしている方がいらっしゃるか極めて不安ではありますが、ベンチャー企業の経営者の方やウェブサービスを営んでいる個人の方は、ご興味があればぜひエントリーをお願いします。
なお、参加者からの事前質問も受け付け中です。→事前質問はこちらから


3/19に発売になった利用規約本も、引き続きよろしくおねがいしまーす。