著者のお一人の橋詰さんからアプリ法務ハンドブックをご恵贈頂きました.
なお、本書の共著者には知人が含まれていますが、書籍の寄贈を除いて、レビューの依頼を受けた等の背景事情はありません。

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さて、IT界隈で法務系の仕事をしている実務家の間では、そのテーマと執筆陣のラインナップから発売前から高い関心が寄せられていた本書ですが、期待を裏切らない内容に仕上がっていました。
既に弁護士の方々からは複数レビューが上がってきていますので、僕は、アプリを出している会社に勤務する人の立場から本書をレビューしてみたいと思います。

1.何をすれば良いのかが明示されている
解説書を読んでも結局のところ実務でどのような対応が必要になるのかや、自分で取りまとめた対応方法が正しいのかについて今ひとつ自信が持てず、結局外部の弁護士さんにダブルチェックを依頼することになったという経験を持つ方は少なくないと思います。
本書は、法令の説明よりも具体的な実務対応に軸足をおいているようで、具体的なアクション(例えば、何を書けばいいのかや、どのように同意を取ればいいのかなど)が豊富な実例を伴って明示されているため、マニュアル的に利用できる内容になっています。
特に、アプリの利用規約、プライバシーポリシー、特商法表記、資金決済法表記については、逐条解説付きでサンプルが掲載されているのはすごいですね。

2.普通の本には書いてないことが書いてある
AppStoreやGooglePlayでアプリを配信する際に適用される規約は、その影響範囲や効果の苛烈さから、もはや適用法令以上の重要性を持つに至っている一方で、頻繁に改訂されることや、そもそも一企業が定めた規約ということもあって、書籍で解説されたことは今までなかったのではないかと思います。
ところが本書では、何を思ったか一つの章の大半をこの規約の解説に充てているのです。しかも、具体的な条項付きで。
間違いなくニーズはあるとは思いますが、思い切りましたね・・・
また、これも実務上のニーズが大きいにも関わらず書籍の解説がほとんどないOSSのライセンスタームについて、正面から取り上げているのも、特にエンジニアにとっては注目かもしれません。
別の章に飛ぶのでちょっと見つけづらいですが、具体的なライセンス文言の表記方法にも触れられているのもこの本ならではかもしれません。

3.トピックが超幅広い
目次をみれば一目瞭然なのですが、開発からマーケティングまでカバーしているので、とにかくもう、取り上げられているトピックが幅広いんですよね。
冒頭のチェックリストや目次を活用すれば、普段法務的な業務をしていない方でも普通に対応していけるのではないかと感じました。
逆に言えば、この本に書いてある情報は既に体系的に整理されて読めばわかる状態になっているわけで、毎月書籍代以上の給料を頂いている法務としては、それを超える価値を提供できなければ存在意義が問われかねないという恐ろしい立場に立たされたともいえます。
目次や索引も充実しており、必要なトピックをつまむような辞書的な使い方にも適していますので、アプリを出している会社にとっては、一社に一冊的な定番書になるのではないかと思います。