法務系Advent Calendar2015の4日目です。

先日公開した契約書のスタイルガイドに続く「契約法務はじめの一歩ツール」として、契約条件の修正パターンをまとめてみました。
新たに契約法務に携わるようになった方にとってのガイドとして機能するよう、できる限り断定的な表現で書くように心がけています。
なお、特定の論点にだけ用いられる修正パターン(合意管轄における被告地主義など)には触れません。
私の個人的な経験・感覚に依るところが大きいので、誤りが含まれている可能性もあります。おかしな記述、疑問点等を発見された場合は、コメントやSNS等を通じて教えていただけると嬉しいです。

A:権利の制限・責任の限定
最も基本的な修正パターンです。
大きく、権利/義務の発生自体を調整するパターン(1・2)と、発生した権利/義務のレベルを調整するパターン(3〜8)とに分けることが可能です。

1.権利・義務の発生要件の追加
説明:
権利・義務を発生させるための要件を追加する修正であり、最も基本的、かつ最も多く行われるパターンの一つです。
基本的とはいえ、条項毎に追加される要件のバリエーションは様々であり、実務に即し、かつ効果的な要件を追加することはそう簡単ではありません。
どのような要件を追加すればよいかわからない場合には、下記の具体例のように、オールマイティの要件である「自社の同意」を追加することを検討してください。
これは、権利の発生を同意当事者が決定できるようになるという意味で、見た目以上に非常に強い意味を持ちます。
逆に、「協議」には要件として追加する実務上の意味がほとんどないため、敢えて追記や削除をする意味はほとんどありません。
複数の要件を追加する場合は、各要件を号に切り出すとともに「以下の各号の要件を満たした場合」といった規定ぶりにすると読みやすくなります。

具体例:
Aは、事前にBの同意を得た場合に限り、本件業務のためにAが要した費用をBに請求することができる。

2.権利・義務の発生を阻害するケースの追加
説明:
但書等により、権利・義務の発生を阻害するための要件を追加する修正です。
基本的に1と同様の機能を持ちますが、権利行使の可否が争われた場合、原則として立証責任は権利行使を受ける側(権利行使を否定する側)が負うことになるため、立証責任を調整するために、権利発生要件として定められた要件を阻害要件に切り替えるといった趣旨でこの修正がなされることもあります。

具体例:
Aは、本件業務のためにAが要した費用をBに請求することができる。ただし、事前にBが除外対象として指定した費用については、この限りではない。

3.権利・義務の対象の範囲の限定
説明:
ライセンスの範囲(地域や領域など)や、秘密保持義務の対象となる秘密情報の範囲などを限定する修正です。
損害賠償の範囲について、「直接損害に限定する」「通常損害に限定する」といった修正が行われることは少なくありませんが、発生した損害が「通常損害」「直接損害」ではないことが明確なケースは決して多くないため、本当にその限定が損害賠償責任の限定という意味で実効性があるのかについては注意が必要です。
逆に、受注者側にとっては、何が瑕疵かをめぐって発注者と認識の相違が生じがちなので、瑕疵の範囲についてしっかり限定をかけておくことは実務上も非常に重要です。
また、実務上うまく設定するのが難しいのが「競業避止義務の対象となる業務の範囲」です。現場(競業されて直接困る人)にしっかりヒアリングするとともに、経験豊富な同僚にダブルチェックしてもらう等の漏れを防ぐための工夫をお忘れなく。

具体例:
Aは、本契約に関してBから開示された情報のうち、秘密に取り扱うべき旨が明示された情報を、第三者に開示もしくは漏洩し、または本件業務の実施以外の目的のために利用してはならない。

4.権利・義務の上限の設定
説明:
損害賠償額や収益分配金額などの上限を設定する修正です。
上記の3で触れた損害賠償の範囲の限定と異なり、損害賠償額の上限設定は「これ以上損害賠償責任は負わない」というわかりやすい制限がかかるという意味で、非常に強力な限定となります。
継続的契約において上限設定を行う場合は、上限のリセットタイミングや判定の単位も設定しないと不合理な規定になってしまう可能性がある点には注意が必要です。
また、強力な限定であるがゆえに、取引全体のバランスに鑑みてあまりに不合理な限定を設定してしまうと、ケースによっては裁判所から上限をスルーされてしまう可能性もあることにも注意が必要です。

具体例:
Aは、Aの責に帰すべき事由によりBが損害を被った場合は、Bの請求に応じ、本件委託料の金額を上限として、Bに対してかかる損害を賠償する責任を負う。

5.権利・義務の存続期間の設定
説明:
収益分配権や、秘密保持義務などの存続期間を限定する修正です。
契約終了後の存続期間を設定するパターンと、契約有効期間の満了前に一定の権利や義務を終了させるパターンの2つがあります。
秘密保持義務については存続期間を限定することに合理性があるケースはあまり多くないはずですが、なぜか限定を求められるケースが少なくありません。そんなときは、「秘密保持義務の存続期間終了後は、Twitterや2chに書き込んでもOKということでしょうか?」と質問してみましょう。
また、以外に辛いのが事業譲渡契約等で定められる長期の競業避止義務です。数年経てば状況が全く変わっていることも少なくないので、強力な義務を長期間負う場合は、現場の責任者にしっかりと義務の内容を認識してもらい、実務上の問題が生じないことを確認する必要があります。

具体例:
Aは、Bに対し、第●条(有効期間)第1項に定められた本契約の当初期間中、毎月末日までに、前月分の本件収益の10%及びこれにかかる消費税相当額を支払うものとする。

6.義務レベルの低減
説明:
義務のレベルを、努力義務や「合理的な範囲で」といった限定つきの義務に落とす修正です。
請負的な仕事の完成義務を委任的な善管注意義務に変更するのもこの修正に該当します。
義務のレベルを落とすことで、債権者としては損害賠償や解除などを行いにくくなるため、B-1の退路の確保といった対抗策を検討する必要があります。
なお、「しなければならない」を「するものとする」に変更しても実務上の意味はほとんどないため、義務のレベルを落とすためにこのような修正を行うことは避けるべきです。

具体例:
Aは、Bから本件システムに関する問い合わせを受けた場合、2営業日以内に回答するよう努めるものとする。

7.多段階化
説明:
権利や義務の内容を一定の基準にしたがって段階分けする修正です。
単価が折り合わない場合に、販売数量に応じて単価を変動させる料金表を作成したり、事業運営に対する影響度に応じて対応の速度を変更するといったことが代表例です。
また、SLAによる履行義務の内容と債務不履行責任の精緻化も、この多段階化の一例といえます。
単純な権利の制限や義務の引き下げよりも手間がかかる反面、相手方の納得を得られやすいため、白か黒かだけではなく、その間のグレーの領域も有効活用することができるようになると、選択肢の幅を大きく広げることが可能になります。

具体例:
Aは、Bから本件システムに関する問い合わせを受けた場合、 2営業日以内 Aが判定する当該問い合わせの重要度に応じ、表1記載の期間内に回答するものとする。

8.双務規定内の義務の切り分け
説明:
双務規定の中に同じ内容で定められている両当事者の義務のレベルを、当事者別に設定する修正です。
双務規定は一見フェアな条件に見えがちですが、実務に照らすと実際には当事者の一方にしかほとんど適用される余地がなかったり、一方当事者に不利な内容になっていることは少なくありません。
そのようなケースでは、敢えて一つの双務規定内の義務の分割や場合分けによって当事者間の義務に差をつけることで、より実態に即した規定に変更することが可能になります。

具体例:
本契約において秘密情報とは、秘密に取り扱うべき旨が明示されたうえで相手方から開示された情報及びAにおいては、秘密表示の有無を問わずBから開示された●●に関する情報をいう。


B:バーター
自社に不利な条件を受け入れる代わりに、一定の譲歩を引き出す修正パターンです。
受け入れる条件と譲歩を要求する条件とが合理性のあるストーリーで関連していることから、単なる交換条件よりも相手方の譲歩を引き出しやすいのが特徴です。

1.退路の確保
説明:
通知解約権の確保や、契約期間の短スパン化によって契約から離脱しやすくしておくための修正です。
また、単に契約を解消しやすくするだけでなく、損害賠償義務の否定、仕掛品がある場合はその買い取り、競業避止義務の調整などにより、契約解消後の悪影響を最小限に留めるための修正もこれに該当します。
A-6で義務のレベルを落とした場合、相手方の義務履行のクオリティに不満があっても責任を追及しづらくなるため、カウンターとして退路の確保を要求することを検討すべきです。
逆に、自社の義務が重い契約も、契約関係から容易に離脱できるようにしておく必要性が高いといえます。
なお、通知解約条項は柔軟性がある一方で、しがらみや相手方への遠慮から実際に行使することがためらわれる傾向にあるため、売上目標やPV等をKPIをして指定し、一定の基準を達成できなければ当然に契約を終了させる、といった形をとることでさらに実効性は高くなります。

具体例:
Aは、Bに対して書面により通知することにより、損害賠償その他の義務を負うことなく、直ちに本契約を解約することができるものとする。

2.最低ラインの確保
説明:
販売ノルマの設定や、ミニマムギャランティの設定等により、最低限の利益等を確保するための修正です。
収益分配案件における収益獲得面を相手方に委ねる場合、具体的には独占ライセンスを設定したり、協業案件において販売面を一任したりする場合は、カウンターとして分配金額や販売数量に最低ラインを確保し、サボることに対して負のインセンティブを設定することを検討すべきです。

具体例:
Aは、Bに対し、毎月末日までに、前月分の本件収益の10%及びこれにかかる消費税相当額を支払うものとする。ただし、本件収益の金額が10,000,000円に満たなかった月においては、1,000,000円及びこれにかかる消費税相当額を支払金額とする。

3.巻き込み
説明:
ある義務を引き受ける代わりに、相手方にも義務の一部の履行を求める修正です。
義務自体は引き受けているので、相手方を巻き込むことに合理性があるケースでは、譲歩を引き出しやすいパターンです。

具体例:
Aは、Bから本件手順の変更を指示された場合、速やかに指示の内容にしたがって本件手順を変更するものとする。なお、この場合、Bは、自己の責任と費用負担により、本件顧客に対する本件手順の変更に関する個別説明及び本件顧客からの本件手順の変更にかかる問い合わせに対する対応を行う責任を負う。

4.費用負担
説明:
ある義務を引き受ける代わりに、相手方に義務履行に伴って発生する費用の負担を求める修正です。
B-3同様、義務自体は引き受けているので、情報を引き出しやすいパターンです。
また、立ち入り監査等の場面で費用負担を求めることで、相手方のカジュアルな権利行使を抑制する効果も得られます。

具体例:
Aは、Bから本件手順の変更を指示された場合、速やかに指示の内容にしたがって本件手順を変更するものとする。ただし、Bは、当該変更に伴って新たにAが負担することとなった費用をAに支払う義務を負うものとする。

5.許可に伴う責任
説明:
相手方にある権利を認める代わりに、それに伴う責任を課す修正です。
秘密情報の再開示を認めつつ、再開示先の管理責任を負わせたり、再委託を認めつつ、再委託先による義務違反について直接責任を負わせるのがこのパターンです。

具体例:
Aは、本件業務の全部または一部を第三者に再委託することができる。この場合、Aは、当該第三者に本契約に基づいてAが負う義務と同等の義務を課すとともに、当該第三者によるかかる義務違反について連帯して責任を負うものとする。

6.許可と報告
説明:
相手方にある権利を認める代わりに、権利の行使状況等について通知・報告を求める修正です。
許可そのものについて制限を課すものではないという意味でバーターパターンの中では最も受け入れられやすいパターンです。

具体例:
Aは、本件業務の全部または一部を第三者に再委託することができる。ただし、Aは、当該再委託を行う場合、事前に名称その他のBが指定する再委託先に関する情報をBに報告しなければならない。

7.同意の義務付け
説明:
A-1やA-2で相手方の同意を要件に加えることを受け入れた際に、同意するか否かを相手方の裁量に完全に委ねてしまうと、あたかも権利を人質に取られたかのような状態になってしまいます。
そこで、同意を要件に加えることを受け入れる代わりに、一定のケースでは同意することを義務付ける修正です。
同意しない場合には「合理的な理由」を求めるのが典型例です。
同意の義務付けにとどまらず、一定のケースで同意を擬制することができれば、更に強力になります。
具体的には、同意要求の後、一定期間内に一定の条件をみたせなかった場合に同意したものとみなす、といった規定が考えられます。

具体例:
Aは、 事前に Bの同意を得た場合に限り、本件業務のためにAが要した費用をBに請求することができる。ただし、Bが、Aから費用請求を受けた後15日以内に費用負担を拒否する旨及びその理由をAに通知しない場合、Bは、当該費用の負担について同意したものとみなすものとする。


C:合意タイミングのコントロール
一つの契約書内で全ての要決定事項について合意することが難しいことは珍しくありません。
そのようなケースで無理なく契約締結達するためのパターンです。

1.合意の先送り
説明:
契約条件の大部分について合意できたものの、一部については合意できない場合に、合意できない部分について「別途合意して定める」と決定を先送りしてしまい、契約の締結を進める修正です。
また、協議の結果として合意に至らなかったような場合以外にも、細かい論点であり、契約締結段階で決めておく必要まではないが、当事者のどちらかが一方的に決定されてしまうことは避けたい、といったケースにも適しています。
合意の先送りをする場合は、先送りした合意事項について結局合意に至らなかった場合に、実務上の支障がないかを必ず確認する必要があります。例えば、義務の履行期日についての合意を先送りする場合は、自社が義務履行当事者のときは合意に至らなくても実務上の支障は少ないと言った具合です。
合意に至らなかった場合に不都合が生じるようなケースでは、合意に至らなかった場合の対処方法を予め定めておくといった対応も重要になります。

具体例:
本件業務を通じて新たに得られた知的財産権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。) は、全てAに帰属、または移転する の帰属については、別途両当事者間で合意して定めるものとする。

2.合意の前倒し
説明:
「別途合意して定める」としている事項を、契約書内で定める修正です。
合意内容が定まっていなくても、決定者を当事者のどちらかに設定することで合意を前倒しすることが可能です。
将来にも合意できない可能性が高い場合には、案件が進捗し、引き返せない状態になってからデッドロックに陥ってしまうことを避けるために、合意を前倒しすることを検討する必要があります。

具体例:
本件成果物の納入方法は、別途 両当事者間で合意して定める Aが指定する方法によるものとする。

3.合意の切り出し
説明:
契約条件の一部についてのみ先行して合意できている場合に、合意できた部分のみを切り出した契約書を別途作成する修正です。
基本合意書を先行して締結するといったものが典型例ですが、仮発注書や内示書といった契約締結前にやり取りする各種書面も、このパターンの一つといえます。
C-1と同様、切り出した残りの部分についてその後の協議を経ても合意できない可能性があることを念頭に、法的拘束力を調整する必要があります。

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このブログのテンプレートのせいもあるのかもしれませんが、かなり読みづらいですね・・・
ごめんなさい。
というわけで、はっしーさんにバトンをお渡しします。