ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
最近、とあるできごとをきっかけに、週に1人のペースで1on1をするようになったので、そのクオリティを上げるヒントが得られればという軽い気持ちで読んでみたところ、想像以上に良かった一冊。

マネージャーの役割
マネージャーの役割が、一番粗い粒度では「チーム全体のパフォーマンスを最大化すること」であることについては多分それほど異論はないと思うんだけど、それを細かく砕いた時にどのような表現になるのかは千差万別。
ある人は「部下の給与を上げること」と表現し、また、「注力すべきこととやらないことを決めること」と表現する方もいます。
この本では、ヤフーでは、部下を成長させることをマネージャーの資格の一つとしていることを明らかにしています。
役割ではなく、資格ということはつまり、それができなければ管理職から外れなければならないということであり、実際にこの資格を欠いていることを理由に管理職の任を解かれた人もいるとのこと。

大企業だからできること?
社員の成長への取り組みについては、「ヤフーのような大きな企業、バッファのある企業だからそのなことが言える」といういう方は、特にベンチャー界隈では少なくないと思います。
ただ、本書によると、ヤフーにおいても社員の成長のために1on1を義務付ける、という施策の導入に対しては「1on1に割く時間の余裕はない」「意味があるのか?」といった反発があったそうです。
つまり、社員の成長への取り組みは、企業が充分に成長・成熟したら支障なく現場に受け入れられるようなものではなく、どこまでいっても人事と、そして何より経営陣の覚悟とポリシーに依るところが大きいということなのだと思います。
ちなみに、本書に収録されているQ&Aにおいて、「1on1に時間を取られて自分の仕事が終わらない」という悩みに対し、「上司の仕事は部下が活躍する舞台を整えることであり、1on1はそのための強力な手段。つまり1on1こそがあなたの仕事」との回答がなされています。
いやはや冷徹。

成長を待てない?
また、ベンチャーでよく言われることに、「成長には時間がかかる、待っていられない」という話もあります。
しかし、この点は本書では別段触れられていませんが、人が本当に成長するときは、何かをきっかけにして爆発的に伸びるものであり、そもそも成長は待つようなものではないと僕は思います。
マネージャーに必要なのは待つことではなく、成長の爆発を起こすために起爆装置を起動し続けることで、それこそがマネージャーの役割だと思うのです。
その意味で、座して待った結果部下がなかなか成長しないことは、誰より上司が恥ずべきことであり、「成長を待っていられない」なんてことは口が裂けても言えないのでは、とも思っています。

まとめ
本書の中で繰り返し言及されているヤフー人事の基本方針「才能と情熱を解き放つ」に対する、所詮パフォーマンスでしょ、売上の方が大切でしょ、という仮想の反論を前に、「だからこそ人事が理想を語らなければならない。人事が理想を語らなければ、いったい誰が語るのか」と言い切れるところにヤフーの強さの源泉を垣間見た気がしました。