エンジニアとのミーティングでFacebookのBSD+PATENTSライセンスについての当社の対応方針を質問されたのですが、その時点ではこの騒動を全く認識しておらず、「えっ、初耳です」的な、法務としてはなんとも情けないリアクションをしてしまうことになったので、ちょっと調べてみました。

という書き出しでことの概要をまとめようと思ったのですが、マンサバにきっちりまとめられていたので概要はそちらを参照していただくとして、ここではこのライセンスとどう向き合うべきかを書いてみたいと思います。

【OSSと特許の関係】
ライセンス条件に従っているにも関わらずOSSの利用が第三者の権利侵害を構成するというという状況にしっくりこない方もいらっしゃるかもしれませんが、仮にOSSが提供している機能について当該OSSと全く無関係の第三者が特許権を保有していた場合、当該OSSの利用は特許権侵害となる可能性が高いはずです。
もし特許権者に悪意があったら、協力者の顔をして開発中のOSSに自分の特許権を持つ技術を組み込んでしまい、広く普及したところで特許権に基づく主張を始めるという戦術も理論上は取ることが可能ですらあります。(Apache License2.0ではContributorによる特許ライセンスが明記されていますが、第三者を通じて特許権侵害コードを組み込むことで容易に回避できるので、悪意のある特許権者に対してはあまり有効な対抗策にはならないと思っています。)

【BSD+PATENTSライセンスの意味】
BSDLでソースコード及びバイナリコードの利用がざっくり許諾されていますが、同時にPATENTSで特許権のライセンスが特に記載されていることからすると、BSD+PATENTSライセンスのBSDでは特許権はライセンスされていないと考えるのが自然だと思います。
逆に言えば、当該OSSに特許権を有していない場合は、BSD+PATENTSライセンスとBSDLに違いはないということでもあります。
だとすると、BSD+PATENTSライセンスを敢えて選択し、多くの変更要請を受けながらもこれを維持したFacebookは、何らかの特許権を当該OSS(の機能)に関して保有しているのだろうということが推測できます。
そして、もしFacebookが当該OSSに関して特許権を保有している場合は、そっくり同じ機能を持つ別のソフトウェアを当該OSSに依拠せずに制作すると、当該別のソフトウェアはFacebookの特許権を侵害している可能性が高い、ということになります。

【BSD+PATENTSライセンスを採用したOSSを利用するのは危険なのか】
BSD+PATENTSライセンスを採用しているOSS、例えばReact.jsを利用している場合、PATENTSの条件により、自社や自社の関連会社(subsidiaries/affiliates)や代理店(agents)がFacebookに対して特許権に基づく主張をすると自動的にReact.jsの特許権ライセンスが終了するということになります。
これを受けて「Facebookの競合他社やFacebookに特許権の主張をする可能性がある会社はReact.jsの使用を差し止めるべき」という指摘がなされているようですが、React.jsについてFacebookがどのような特許権を保有しているのかを把握していない段階でこのような対応をするのはやり過ぎではないかと思います。(使っても使わなくても開発に影響がないライブラリであるなら別ですが、React.jsはそういった種類のものではないと理解しています。)
というのも、もしReact.jsの利用を差し控えて、例えば自社で必要な機能を開発したり、他のライブラリから必要な機能を調達したとしても、それがFacebookのReact.js関連特許に抵触している場合は、結局特許権侵害になってしまうことには代わりはないからです(React.jsを使う限りはPATENTSに基づいてライセンスを受けられますが、そうでない場合はライセンスのない実施にしかならない)。
そもそも、PATENTSに基づくライセンスはFacebookに特許権の主張をするまで終了しないので、もしFacebookに対して特許権の主張ができそうな状態になったら、そのタイミングで初めてReact.jsの利用停止を検討すれば良いだけのことです。
さらに言えば、もしFacebookがReact.jsに関する特許権を一切保有していなかったとしたら、特許権ライセンスが終了しても、当然のことながらReact.jsの利用は妨げられません(そりゃそうだ)
このような前提に鑑みると、BSD+PATENTSライセンスへの強い反発は、損得勘定というより、優越的地位を振りかざして非合理的な主張を押し付けるFacebookへの抗議という側面が強く、その利用は別段危険なものではない、というのが現時点における私の感触です。

【まとめとお願い】
BSD+PATENTSライセンスの存在をしったのもつい先日のことで、リサーチもウェブ上の資料を当たっただけなので、僕自身の特許に対する知見の欠如も相まって上記の内容に重大な誤りや勘違いが含まれている可能性があります。
にも関わらずこうして記事に書いたのは、偏に「間違いがあれば早めに気づきたい」という一心によるものなので、ぜひ間違っている(ようにみえる)ところがあれば、コメントやTwitter等でご指摘頂けるとうれしいです。

ではでは