僕がまだ駆け出しの法務担当者だった頃、きっかけは忘れてしまったけど、Business Law Journalの前身であったLexis企業法務という雑誌の創刊号を手にとったことを今でも薄っすらと覚えている。
それまでの法務向けの雑誌がまとっていた格調の高さを軽やかに脱ぎ捨て、等身大の法務担当者の目線で構成された記事に物珍しさを感じ、上司に掛け合って定期購入を開始することになった。

失礼な言い方になってしまうかもしれないけれど、僕に言わせると、BLJは、企業法務の雑誌ではなかった。
BLJは、企業法務担当者の雑誌だった。

BLJは、「読者交流会」という名の法務担当者を集めた飲み会を何度も繰り返し主催した。
一人3000円の会費なのに、その倍くらいの予算が必要なお店で、業種や年齢の垣根を超えて法務担当者が交流する場をなぜBLJ編集部が主催しているのかが不思議で、何度か「なぜこんなことを続けているのですか?」と、不躾にも質問したことがある。
もちろん、BLJ編集部としての(とても合理的な)狙いは確かにあったのだけれど、それは同時に、社内に人間関係が閉じがちな法務担当者にとって、間違いなく外の世界に向けて開かれた扉でもあった。

また、BLJは、無名の法務担当者に記事執筆の機会を与えてくれる場でもあった。
著名な企業の法務部長でも、時代の最先端を走るインハウスでもないけれど、日々悩みながら課題を解決し、知見を蓄積してきた法務担当者が、そのエッセンスを記事という形でBLJに発表し、人に読まれ、役に立ったという経験は、座席スポットライトを当て、観客をステージに引き上げるような営みだったと思う。そういった経験は、その人の一生を変えることすらある。


つまりBLJは、企業法務の雑誌ではなく、企業法務担当者の雑誌だった。


ある日、ライトニングトークという形態のイベントがエンジニア界隈で流行っているということを知った僕は、いつものノリでとりあえずやってみるかと企画してみたものの、当時所属していた会社は外部イベントに会議室を貸し出すようなタイプの会社ではなかったため、会場の確保がネックになっていた。
そこで、読者交流会でのツテでBLJ編集部に「御社の会議室を貸していただけませんか?」とダメ元で依頼してみると、すぐにOKしてくれた。
ただの読者でしかない一介の法務担当者が企画した前例のないイベントのために自社の会議室を貸し出す雑誌の編集部がどこにあるだろうか。ちなみに、BLJ編集部は会場を貸してくれるだけでなく、きっちりLTもしてくれた。さらに第3回目に至っては、読者交流会をマージして主催すら買って出てくれた。
正直ちょっとおかしいんじゃないかとは思うけど、別に不思議ではない。だって、BLJは、企業法務担当者の雑誌だからね。


何度か転職をし、そのたびに転職先でBLJの定期購読の決裁を取った。
僕は企業法務担当者だったから、企業法務担当者の雑誌であるBLJを定期購読をするのはとても自然なことだった。
定期購読が認められないときは、個人で定期購読をした。だって、僕は企業法務担当者だったから。


ただ、僕はいつまでも企業法務担当者で居続けることはできなかった。
ビジネスパーソンとして担当領域を広げるチャレンジをしたかったし、法務という枠を超えたチームマネージメントにも携わりたかった。


そのうち僕は、BLJをあまり読まなくなってしまった。


そして、先日、BLJが休刊するという報に触れた。


最初によぎった感想は「残念」でも「しょうがない」でもなく、「申し訳ない」だった。
一方的に世話になり、勇気づけられ、機会を提供されながら、いつの間にか定期購読すらしていなかったことに、申し訳ないと思った。
ただの読者なのに、自分でもちょっと変だと思うけど、本当にそう思った。

自分ひとりの購買行動で何が変わるというわけではないけど、「最終号が自宅に届いた」というtweetを見かけるたびに、なんども申し訳ないと思った。

そんな経験はないけれど、一方的に世話になっておきながら自分の都合で不義理をしてしまった親戚の訃報に触れたときは、こんな感情を抱くんじゃないかと思う。

もう一度だけ言うけど、BLJは、たしかに企業法務担当者の雑誌だった。

ありがとう、Business Law Journal
またいつか「うちにはまだ届いてないぞ」ってtweetしたいね。

メリー・クリスマス!