僕は、試食が好きだ。

いや、正確に言おう。
僕は、試食の場で繰り広げられている戦いを見るのが好きだ。

今日、ばんごはんを買いに行った西友では、西武のリーグ優勝もあってか、やたらと試食コーナーが設けられていた。

あ、カレーのにおいがするな、あ、バター焼きのにおいがするな、と、くんくんしながら周りを見ていると、あぁ、いたいた

ん?
いや、もちろん、あれですよ。

試・食・魔

今日発見したのは弾丸すら跳ね返しそうな厚化粧をしたオバサン。
さっきいいにおいをさせていたカレーを食らっています。
そして、富江さん(52歳 仮名)は、じゅるじゅるとカレーを食べて、一言。
これ、あんまりおいしくないわね。」

え、
えぇぇぇぇぇ!

さすがにこう言われては、販売員さんもぐうの音も出ないようで、静かにお見送りです。


その次におばさんが向かったのは、ほたてのバター焼き。
でも、こちらの試食場を取り仕切ってるのは、年季の入ったおばおねいさん。
ちょっと一筋縄ではいかないようで、ほたてを食べ終わった後、熱心なセールストークに足止めを食っています。


これなら少し目を離しても大丈夫だな、と思って奥さんと晩御飯の相談をしていると、なんとほたてコーナーから富江さんの姿が消えています。

奥さんとの相談もそこそこに、あわてて富江さんの姿を探すと・・・
あ、いたいた。

今度はレトルトスープをごくごく飲んでるぞ。
ごくごくごく・・・
そして、一言。
わたし、こうゆうスープ好きじゃないの

え、
えぇぇぇぇぇぇぇぇ!


僕は、「じゃぁ、飲むなよ〜」とつぶやきながら、富江の後を追います。
と、その時気づいたのですが、富江のカゴにはホタテの雄姿が!
どうやら、ホタテコーナーでは敗北を喫したようです。やるな、ホタテおばちゃん。


つづいて富ちゃんは、ちゃんこ鍋のコーナーへ向かいます。
しかし、ちゃんこ鍋の試食は全部はけてしまったようで、現在鋭意作成中でした。
あからさまに鍋を覗き込む、富ちゃん。
キャベツを投入しながらおびえた目をするおねいさん。
売り物のお肉が置いてけぼりの、妙な空気が二人の間に流れています。

そして、一言。
ねぇ、これ、まだ食べられないの?

え、
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?


だって、今目の前で野菜投入してたじゃん。火がとおってるわけないよ・・・
まだ、鍋っていうより、サラダだよ。それ。

「申し訳ございませんが・・・」
と、頭を下げるおねいさん。
それをにらめつける富ちゃん。
お肉を選ぶ振りをして笑いをこらえる僕。
これぞ三位一体の構造改革。

で、どうやら富ちゃんは試食が出来上がるまで待つようなので(!)、この辺で追跡を断念し、奥さんのところへ戻りました。


そして、帰りがけにトミーがカマンベールチーズを食べているのを見つけたので、かごに目をやると・・・

え、
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

さっき確実にカゴに投入されていたはずのホタテの姿が、ない

どこかに捨ててきたのでしょうか・・・
まさか、ホタテコーナーに返してきたって事は、ないよね?(だとしたら、すげぇ)

どちらにしても、一見ホタテおばちゃんの勝利に見えたこの試合、トミーの大逆転で幕を閉じたのでした。

富江の実力、恐るべし・・・