義父が亡くなって、もう2年が経ちます。
彼は、その闘病生活と死に様を通じて、いろいろなことを僕に教えてくれました。

そもそもの始まりは、滅多に体の不調を訴えず、病院にもなかなか行こうとしなかった義父(当時はまだ義父ではなかったけれど)の、彼女(今の妻)への「調子が良くない。尿の出も悪い。」との電話でした。

その時は嫌な予感はしたものの、まだ若い(確か47)だったこともあり、少なくとも僕は、それほど心配していませんでした。

そして、その翌日、当時はまだ司法試験の受験を続けていたので、大学の図書館でいつもどおり勉強していると、彼女から電話がありました。
「お父さんはガンの可能性が高いって。大学病院で再検査をしてもらう。」
正直、まったく実感がわきませんでした。
僕の知っている義父は、照れ屋で優しいけれど、同時に強く、たくましい人だったので、大病に冒されている姿をなかなか想像できなかったのです。

数日後、彼女から、再検査の結果を知らせる電話がありました。
「やっぱり、ガンだった。かなり進行しているみたい。」
・・・初診が間違いであって欲しい、という淡い願いは、やはり叶いませんでした。
そして、
「もって半年だって。もう、肝臓が半分しか機能してないって・・・」
と。
彼女の嗚咽を聞きながら、僕は何か言わなければならない、と思っていましたが、そのときの僕は、彼女にかけるべき言葉を思いつきませんでした。

その日から、義父の本格的な闘病生活が始まりました。
彼女の話では、ガンの痛みと治療の副作用で、ものすごく苦しい時があるということだったけれど、少なくとも僕がお見舞いに行った時に、僕の前で苦しそうな表情をすることはありませんでした。

義父には治癒が絶望的であることは伝えていなかったため、数ヶ月間治療を続けていると、「次の手術が終われば、退院できるかもな。」と、明るい顔で話をすることが多くなってきました。
その頃が、彼女と彼女の家族にとって、精神的には一番つらい時期だったんだと思います。
義父は病気が治ることを信じている。家族はもってあと数ヶ月ということを知っている。
彼女や彼女の家族は、笑いながら義父と話をしたあと、廊下に出てよく泣いていました。

また、義父は「○○(彼女の弟)が成人するまでは生きなきゃな。」と、よく言っていました。
でも、○○が成人するまで、あと1年以上あるんです。ガンの進行状況を考えると、それは明らかに無理な願いでした。
そして、それに対し、家族は「成人するまでなんてけち臭いこと言うなよ。もっと長生きするんだから。」と答えていました。
僕は、なんとか笑顔を作りながら、何かの罰ゲームみたいだという感覚を拭い去れませんでした。
誰も悪いことはしていないのに、みんなが苦しんでいる。みんなが苦しんでいるのに、みんな笑っている。
とても悲しくて、不思議な光景でした。

余命告知から半年が経ったころ、義父は、良くしてくれた看護婦さんや同室の患者さんに、「今までありがとう。」といったことを伝えるようになりました。
もう、死期が近いのをご自分で悟ったのだと思います。
治療も、ガンの抑制から痛み止めへとシフトしていきました。
そして、その一ヵ月後、義父の容態が急変しました。

もう危ないとの連絡を受けて病院へ向かい、移された個室へ入ると、すでに多量のモルヒネで意識が朦朧としているはずなのに、義父は上体を起こし、いつもと同じ調子で「おぉ、げんちゃん(と呼ばれていた)、いらっしゃい。」と言いました。でも、その目は僕ではなく、何も無い壁の方を向いていました。
驚いて骨と皮だけになってしまった細い手を握り、「義父さん、ここだよ。そばに居るよ。」と話しかけましたが、既にさっきのようなしっかりとした反応はありませんでした。
そして、それが僕と義父との最後の会話になりました。
ガンは最終的に肺にまで転移し、最後の最後まで義父を苦しめましたが、呼吸を止めた義父は「今までの苦しさは全部嘘でした」と言わんばかりの安らかな顔をしていました。

僕は、大学を卒業した後も就職せず、受かるかわからないような試験への挑戦を続けていた男であり、義父にとって、娘の彼氏として決して満足できる存在ではなかったと思います。
でも、義父は、僕を責めるようなことを一度も口にすることはなく、それどころか、僕が居ないところで誰かが僕の悪口を言うと、それを諌めていたと聞きました。

義父が亡くなった直後、自分でも信じられないくらい涙が溢れてきました。
僕は、物心ついたときからほとんど泣いたことがなく、それを周りの大人にほめられて育ったためか、それまではどんなに悲しいことがあっても涙を流すことはありませんでした。
でも、義父の亡骸を前にした僕は、わけのわからないことを言いながら嗚咽していました。

今でも、人に義父の話をしようとすると、必ず涙がこみ上げてきます。
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このエントリーは、CROSSBREEDさんのどうして私がいつもダイエットしてる時に(・∀・)ニヤニヤと見つめやがりますか(゚Д゚)ゴルァを読んで甦った記憶を辿って書きました。
なお、本エントリーは、人様に読んでいただくことをあまり考慮していないため、落ちもありませんし、意味が解りづらい部分もあるかと思いますが、ご容赦下さい。
このエントリーを書くことで、僕の中にたまった澱のようなものが少しでも外に出ることを願って。