ブックレビュー

今月のビジネス法務(2017年10月号)の特集1は「法務部の生産性向上」ということで、定期購読している雑誌をなかなか読まない僕には珍しく速攻でチェックしました。


・・・が。


ぜーんぜん、生産性向上についての記事が載ってない!!

いや、全然ではなかった。
GMOペパボの株主総会の準備をガチのスクラムでやってみた件はちゃんと生産性向上について書かれていたし、雛形運用のようなありふれたものではあるけど業務の効率化策に関する記載もあったので、正確には

GMOペパボ以外は生産性向上のヒントになる記事はなかった

だった。


いやね、どの記事もいいこと書いてあるんです。これはほんと。ただ、その多くは業務品質の向上策についてのものなんですよね。
でも、生産性ってのは「インプットに対するアウトプットの比率」なので、業務品質の向上、つまりアウトプットの質の向上についてだけ触れるだけでは生産性向上について書いたことにはならないと思うんです。
また、業務効率化は付加価値の低下を最低限に留めることが当然の前提にされているはずなので生産性の向上策であることは間違いないんですけど、程度の差こそあれ業務の効率化には既にどのチームもある程度は取り組んでいるので、それによって目に見えて生産性が向上することはあまり期待はできません。

そもそも法務は生み出す付加価値について他者の評価にさらされる機会が他の職種に比べて極端に少ないことから、仮に付加価値をあまり生み出していなくても、そのことを咎められにくい職種の一つであるといえます。
加えて、法務以外の部署にとってリーガルリスクを敢えて放置するという判断は採りづらいので、生産性が低い(投入する労働力とのバランスが崩れている)付加価値向上策であっても、それを外野から非難するのは困難であることもこの傾向に拍車をかけます。
こういった事情を背景に、(最近はだいぶましになってきているとは思いますが)未だにセレモニーに毛が生えたようなNDAに対して丹念な修正を加えたり、実務上のリスクが極めて低い事案に時間を割いてきっちり対応したりするといった、乏しい付加価値に対する労働力の投入が普通に行われているように感じています。

そんな状況下で「法務部の生産性向上」が特集されているということだったのでとても楽しみにしていたのですが・・・。
もっと正面から「生産性」の向上に向き合った他社事例を読みたかったな、と残念に思いました。


なお、繰り返しになりますが、この特集が「生産性向上」ではなく、「業務品質の向上」をテーマにしたものであれば、普通に良い特集だったとは思います。

ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
最近、とあるできごとをきっかけに、週に1人のペースで1on1をするようになったので、そのクオリティを上げるヒントが得られればという軽い気持ちで読んでみたところ、想像以上に良かった一冊。

マネージャーの役割
マネージャーの役割が、一番粗い粒度では「チーム全体のパフォーマンスを最大化すること」であることについては多分それほど異論はないと思うんだけど、それを細かく砕いた時にどのような表現になるのかは千差万別。
ある人は「部下の給与を上げること」と表現し、また、「注力すべきこととやらないことを決めること」と表現する方もいます。
この本では、ヤフーでは、部下を成長させることをマネージャーの資格の一つとしていることを明らかにしています。
役割ではなく、資格ということはつまり、それができなければ管理職から外れなければならないということであり、実際にこの資格を欠いていることを理由に管理職の任を解かれた人もいるとのこと。

大企業だからできること?
社員の成長への取り組みについては、「ヤフーのような大きな企業、バッファのある企業だからそのなことが言える」といういう方は、特にベンチャー界隈では少なくないと思います。
ただ、本書によると、ヤフーにおいても社員の成長のために1on1を義務付ける、という施策の導入に対しては「1on1に割く時間の余裕はない」「意味があるのか?」といった反発があったそうです。
つまり、社員の成長への取り組みは、企業が充分に成長・成熟したら支障なく現場に受け入れられるようなものではなく、どこまでいっても人事と、そして何より経営陣の覚悟とポリシーに依るところが大きいということなのだと思います。
ちなみに、本書に収録されているQ&Aにおいて、「1on1に時間を取られて自分の仕事が終わらない」という悩みに対し、「上司の仕事は部下が活躍する舞台を整えることであり、1on1はそのための強力な手段。つまり1on1こそがあなたの仕事」との回答がなされています。
いやはや冷徹。

成長を待てない?
また、ベンチャーでよく言われることに、「成長には時間がかかる、待っていられない」という話もあります。
しかし、この点は本書では別段触れられていませんが、人が本当に成長するときは、何かをきっかけにして爆発的に伸びるものであり、そもそも成長は待つようなものではないと僕は思います。
マネージャーに必要なのは待つことではなく、成長の爆発を起こすために起爆装置を起動し続けることで、それこそがマネージャーの役割だと思うのです。
その意味で、座して待った結果部下がなかなか成長しないことは、誰より上司が恥ずべきことであり、「成長を待っていられない」なんてことは口が裂けても言えないのでは、とも思っています。

まとめ
本書の中で繰り返し言及されているヤフー人事の基本方針「才能と情熱を解き放つ」に対する、所詮パフォーマンスでしょ、売上の方が大切でしょ、という仮想の反論を前に、「だからこそ人事が理想を語らなければならない。人事が理想を語らなければ、いったい誰が語るのか」と言い切れるところにヤフーの強さの源泉を垣間見た気がしました。

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著者のお一人の橋詰さんからアプリ法務ハンドブックをご恵贈頂きました.
なお、本書の共著者には知人が含まれていますが、書籍の寄贈を除いて、レビューの依頼を受けた等の背景事情はありません。

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さて、IT界隈で法務系の仕事をしている実務家の間では、そのテーマと執筆陣のラインナップから発売前から高い関心が寄せられていた本書ですが、期待を裏切らない内容に仕上がっていました。
既に弁護士の方々からは複数レビューが上がってきていますので、僕は、アプリを出している会社に勤務する人の立場から本書をレビューしてみたいと思います。

1.何をすれば良いのかが明示されている
解説書を読んでも結局のところ実務でどのような対応が必要になるのかや、自分で取りまとめた対応方法が正しいのかについて今ひとつ自信が持てず、結局外部の弁護士さんにダブルチェックを依頼することになったという経験を持つ方は少なくないと思います。
本書は、法令の説明よりも具体的な実務対応に軸足をおいているようで、具体的なアクション(例えば、何を書けばいいのかや、どのように同意を取ればいいのかなど)が豊富な実例を伴って明示されているため、マニュアル的に利用できる内容になっています。
特に、アプリの利用規約、プライバシーポリシー、特商法表記、資金決済法表記については、逐条解説付きでサンプルが掲載されているのはすごいですね。

2.普通の本には書いてないことが書いてある
AppStoreやGooglePlayでアプリを配信する際に適用される規約は、その影響範囲や効果の苛烈さから、もはや適用法令以上の重要性を持つに至っている一方で、頻繁に改訂されることや、そもそも一企業が定めた規約ということもあって、書籍で解説されたことは今までなかったのではないかと思います。
ところが本書では、何を思ったか一つの章の大半をこの規約の解説に充てているのです。しかも、具体的な条項付きで。
間違いなくニーズはあるとは思いますが、思い切りましたね・・・
また、これも実務上のニーズが大きいにも関わらず書籍の解説がほとんどないOSSのライセンスタームについて、正面から取り上げているのも、特にエンジニアにとっては注目かもしれません。
別の章に飛ぶのでちょっと見つけづらいですが、具体的なライセンス文言の表記方法にも触れられているのもこの本ならではかもしれません。

3.トピックが超幅広い
目次をみれば一目瞭然なのですが、開発からマーケティングまでカバーしているので、とにかくもう、取り上げられているトピックが幅広いんですよね。
冒頭のチェックリストや目次を活用すれば、普段法務的な業務をしていない方でも普通に対応していけるのではないかと感じました。
逆に言えば、この本に書いてある情報は既に体系的に整理されて読めばわかる状態になっているわけで、毎月書籍代以上の給料を頂いている法務としては、それを超える価値を提供できなければ存在意義が問われかねないという恐ろしい立場に立たされたともいえます。
目次や索引も充実しており、必要なトピックをつまむような辞書的な使い方にも適していますので、アプリを出している会社にとっては、一社に一冊的な定番書になるのではないかと思います。


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内田・鮫島法律事務所の伊藤 雅浩先生より、ご著書システム開発紛争ハンドブック―発注から運用までの実務対応をご恵贈頂きました。





システム開発をめぐるトラブルを専門とされる弁護士といえばと問われたとき、松島先生と伊藤先生のお二方のお名前が浮かぶ方は少なく無いと思いますが、本書はその松島先生と伊藤先生の共著によるシステム開発紛争をテーマに取り上げた書籍というわけで、その情報だけで購入を決めた方も少なくないのではないでしょうか。
かくいう僕もその一人でした(ご恵贈頂いたので、実際には購入には至りませんでした。なんかすみません・・・)。

さて、本書は、タイトルに「システム開発紛争」を掲げており、実際に裁判例を軸に様々な論点に対して説明が進められていきますが、現に紛争案件を取り扱っているか否かにかかわらず、システム開発関連の契約法務に携わっている方は一読しておくべき一冊だと思います。
というのも、システム開発に関して発生する様々なアクションについて相談を受けた際に、それを裁判所がどのように評価するのかを知らなければ、自分の感覚や、自分なりに考えた理屈を頼りに回答することになってしまいますが、もしそれが裁判所の判断と異なるっていた場合、無意味な、また場合によっては有害なアドバイスをしてしまうことになりかねないからです。

また、裁判例が豊富に掲載されているということは、つまりトラブル事例集としても機能するということでもあります。
システム開発紛争に関する社内研修を行うと、必ずテーマとしてリクエストを受けるのはこの「トラブル事例」の共有なので、日本屈指のシステム開発関連訴訟の専門家が選定したトラブル事例集を手にすることができるという意味では、法務だけでなく、プロマネや情シス部門の責任者の方にも有用なのではないかと思います。

僕も、ひとりよがりなオレオレ理論で会社に損害を与えてしまうことの無いよう、もう一度ドッグイヤーしたページを読み返して、しっかりと自分の血肉にしたいと思いました。


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先日、タイトルだけ見て買った法務のお仕事系の書籍が、ちょっと自分の期待していた内容と違っていて、ややがっかりした後になんとなく手にとった知って得する ソフトウェア特許・著作権 改訂六版が素晴らしかったのでご紹介。

上記の、僕が勝手にがっかりした本と違う意味で、「タイトルから想像する内容」と「実際の内容」が異なる一冊でした。

まずおどろくべきことに、この本、特許権と著作権と同じボリューム・レベル感で、商標権についてもがっつり書かれているんです。なんでタイトルに商標権が入ってないんだ!(まぁ、初版には入ってなかったとか、そういうことなんだろうけれど)で、要所要所で意匠権についても触れられています。

もう一つ驚いたのが、「知って得する」という語感から受ける概説書・入門書的イメージと異なり、カバーするトピックの幅広さと深さは、それだけでしっかりと実務に使えるレベルのものになっています。具体例も多く、例えばパッケージソフトウェアの商標権の類似群コードは「11C01」「42X11」「35K08」だよ、なんてことが明記されていたり、特許のアイデアを具体化するためのブレストの進め方なんてトピックもあったりします。

さらに、「ソフトウェア」特許・著作権とは謳っているものの、基礎となる「ソフトウェアに限定しない」特許・著作権(と商標権)についてしっかり論じたうえで、具体例としてソフトウェアで当てはめをしたり、ソフトウェア特有のトピックを出したりしてくれるので、ソフトウェアにとどまらない知財の知識をおさらいすることが可能です。

文章もとても読みやすく、厚さの割にサクッと読み進められるので、週末の一冊にお勧めです。

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先週、社内の法務部門の勉強会で、ISMS担当を兼任する同僚が個人情報関連をテーマに取り上げていたんですけど、その中で「もし当社で個人情報漏洩事件が発生したら、どのように対応すべきか」という項目があって、それがすごく盛り上がりました。
ベネッセさんの対応が資料中で例示されていたんですけど、
  • 同じ立場に立たされたとしたら、同じスピード感で対応できたか
  • 漏洩が発覚した時にまずすべきことはなにか
  • 誰に相談すべきなのか
といったことを話し合っていると、これは避難訓練のように、全社で情報漏洩対応訓練をすべきじゃないかという気がしてきました。

「●階で火災が発生しました」の代わりに、「●●から●●情報が漏洩しました」というアナウンスがなされて、初動や官公庁報告、プレスリリースをシミュレーションする感じで。
これ、ディープな個人情報を持っている会社や過去情報漏えい事故を起こしたことがある会社さんはやられているんじゃないかと推測するんですけど、実際のところどうなんでしょうか。
実際に情報漏洩対応訓練を回している会社さんがあったら、ぜひお話をお伺いしたいです。


というタイミングで、企業法務のFirst Aid Kit 問題発生時の初動対応 First Aid Kit@kyoshimine先生からご恵贈頂き、勉強会で取り上げられた個人情報漏洩についても入っているのかな・・・と、早速目次を眺めてみると、ばっちりありましたよ、「自社が管理する個人情報の漏洩事故が発生しました。初動対応はどうすればよいでしょうか。」って項目が。

First Aid Kitというだけあって、初動でどうするかに全力でフォーカスしており、これだけで各インシデントへの対応を網羅できるというものではありませんが、その分様々な事例、しかも、Q&A形式でありがちな「答えを書くために質問を立てる」系を最小限に留めて実務あるあるを354も集めているのは圧巻です。
この本に掲載されているインシデントに対して即座にある程度的確な初動のToDoを出せるようになったら1人前なのだとすると、1人前までの道は程遠いですね・・・

そう考えると、もしかするとこの本、初動対応を学ぶための本というより、企業法務の問題集としての価値のほうが高いのかも、なんて思ったりしました。


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評判はすごくいいということは知っていたけれど、ターゲット層とは違うんだろうなと自覚していたので買うまでには至っていなかったのですが、たまたま図書館で借りることができたので読んでみました。

ビジネスパーソンのための契約の教科書

読みやすい筆致と新書サイズの組み合わせで、するすると最後まで読み切ることができるのに、現場向けのテキストとしては内容の薄さを感じさせないのはさすがだなぁと感心しきりでした。
法務の担当者や法曹の方が読んでも新しい知見を得られることはない(そもそもタイトルからしてそんなことは狙っていない)んだろうけど、一方で「現場に向けてどのレベル感の情報を提供すればちょうどいいのか」の指針としてはすごく有用なんじゃないかと感じました。
契約書の条項の解説の選り分け方とか、ね。
もちろん、本来のターゲットである法務以外のビジネスパーソンには、こんなひねくれた考えをせずに素直にお勧めできる一冊です。




で、毎度おなじみの本筋とは関係のない話だけど、本書で出てくる「明らかに形式的な修正しか無いのに福井先生にチェックを依頼する会社」って、福井先生のおっしゃる「契約書を読んでいない」会社だよね(笑)
内容を確認するのと同時に「こんなの読めば依頼するような話じゃないってわかるでしょ。」ってお説教というか、指摘をしているのだろうか。
それとも、それはそれ、これはこれ、なんだろうか。
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労働法のキモが2時間でわかる本を読んだのでレビュー。

勤務していた銀行を退職し、超適当企業に転職することになった女性社員(ナナ)が超適当な扱いをされ、知り合いのイケメン社労士の力を借りつつうまく凌いでいくというストーリーを通じて労働法の基礎を学べる軽いタッチの本です。
とはいえ、ストーリーと解説の比率が1:1くらいと、類書よりも解説の比率が高めになっているので、確かに「キモ」は把握することができたような気がします。
(僕自身、労働法に関する知識レベルが極めて低いので、ちゃんと「キモ」を抑えられているのかは正直よくわからないのですが・・・)

ストーリーの舞台となっている田中建設はそこそこ規模のワンマン経営企業で、片っ端からものの見事に労働法を無視してくれますが、「こうすべきだった」という解説を読むと、普通の会社が労働法規をちゃんと遵守するのはつくづく大変なんだなぁと実感します。

なお、取り扱っているテーマは
  • 募集・採用
  • 労働契約
  • 労働時間・割増賃金
  • 休日・休暇
  • 賃金支払
  • 就業規則
  • 解雇
  • 労基署の調査(!)
と、かなり幅が広くなっています。

タイミングが合えば中古をかなり安く買えるので、ぜひ格安ゲットを狙ってみてください(笑)

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シチュエーション別提携契約の実務を読んだのでレビュー。

「提携契約」というもんのすごく広い範囲を対象にしていることから、散漫な内容になってるんじゃないかと疑っていたのですが、まったくもってそんなことはありませんでした。

この本は、
・(1)代理店契約、(2)ライセンス契約、(3)合弁契約、(4)株式買取契約の4つについて、
・当事者間の意見が対立しがちな論点にフォーカスして、
・実際の条項例を出しつつ
・双方の立場の思惑や考え方を垣間見ながら
・落しどころに落ち着くまでを見届ける
という本であって、散漫どころかグッとメリハリの利いた良著だったのです。

契約条項について解説している本は少なくないですが、各当事者の主張や思惑、そして落しどころまで追っている本は、僕は他には知りません。
本を読んでいるのに、OJTに近い感覚で知識を習得できるという意味で、多くの契約書をドラフティング・チェックしてきたTMIの経験・知見の積み重ねが行間からにじみ出ているように感じます。

少なくとも国内契約でそんな条件設定しないだろ、と突っ込みたくなる、過度にテクニカルな条項も飛び出てきたり、契約スキームの検討がもう濃かったら良かったな、といった要望事項もあるにはありますが、読後の満足度はとても高かったです。文章もすごく読みやすかったですしね。

ベンチャー企業の法務・財務戦略のようにこってりと踏み込んだ何かがあるわけではないので、日ごろから実務でバリバリ上記の4契約を見ている人(後ろの2つについてはそんなに多くないと思うけど)には物足りないかもしれませんが、そうでない方にはかなりお勧めできる一冊です。

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11月分のブックレビューネタとしては、「労働法のキモが2時間でわかる本」を用意していたのですが、tacさんが激賞していらっしゃるとあって「クラウドと法」読まずにはいられませんでした。

というわけで、以下レビューです。
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まず最初に言っておきたいのは、この本は間違いなく良書であるということです。
読みやすい筆致と、細かい個所はバッサリと「ここは細かい話なので」と落としていることが奏功し、かなり広範な領域について高い密度で言及しているにもかかわらず、混乱することなく読み進めることができました。
おそらく本書の狙いもそうだと思うのですが、法務担当者以上に、実際にクラウド関連のビジネスを展開している事業者の現場責任者や、クラウドサービスの導入を検討している経営者・情シス部門の方などが読まれたら漠然とした不安が解消(または確固たる懸念に進化)するという意味で有用なのではないだろうかと感じます。

ただ1点残念だったというか、期待していた分肩すかしだったのが、「クラウドと法」というタイトルであるにもかかわらず、(昔からあるホスティングサービスとの比較での)クラウド特有の法的な問題は結局ほとんど出てこなかったように感じたこと。
クラウドは、海外のデータセンターに情報を預けることとイコールではないし、経営上重要な意味を持つとも限らないのだから、海外のデータセンターに情報を預けることで発生するリスクを「クラウドのリスク」ということには強烈な違和感を覚えるし、「クラウドの導入は取締役会決議事項か」という問題提起もピントがずれているように感じます。
本書が「クラウドという言葉でいろいろなサービスがひとくくりにされて何がなんだかわけわからん」という現状をきれいに交通整理してくれるポテンシャル持っているからこそ、「クラウドの本質から直接発生する問題」と、「現状のクラウドサービスのよくあるパターンから発生する問題」とをきちんと分けてくれたらもっと良くなったんじゃないかなぁ、と思わずにはいられませんでした。

いずれにせよ、読んで損することはない1冊だと僕も思います。

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