ブックレビュー

これが法律本の範疇に入るのか定かではないのですが、コンプラ研修の準備つながりで、烏飼先生の「豊潤なる企業」を読んだので、10月分としてレビューします。

全体を通じて烏飼先生から(遵法意識に欠ける)経営者へのお説教といった趣きが漂っており、情報密度はあまり高くない反面、とても読みやすい一冊でした。

この本を貫く思想は、
誤解を恐れずにいえば、内部統制に関する法律の規律は、本来、必要がない。なぜならば、経営者がある程度の規模の企業を経営していれば、経営者は企業全体を見渡せないので、おのずから企業全体に対する経営管理をするための体制を築く必要がある。これこそがまさに内部統制システムそのものであり、規模の大きな大企業においては法律に規律されるまでもなく、すでに内部統制システムは構築しているからである。その意味では内部統制システムは、そもそも経営管理という経営者が企業の恒久的成長を図るという役割を果たすために、当たり前のことを指しているに過ぎない。
p38-39(太字katax)
であり、これを「当然そうだよね」と受け入れられる方にとっては、この本のかなりの記載を冗長に感じるのではないかと思います。

また、「”車の両輪論”から”優先順位論”へ」(p133-)で述べられている、売上確保と法令遵守は車の両輪ではなく、法令遵守を優先させるよう経営者が明確に打ち出さないと結局法令違反状態に陥るという指摘は、とても重要だと思います。
ただ、これを徹底してしまうと、特に日本以外の「きれい」ではない国でビジネスをしている企業にとっては建前も甚だしいと捉えられてしまうことは必須だと思うので、やはりコンプライアンスは「期待・信頼」を軸にしないとだめなんじゃないかな、とも再認識しました。基準として明確でないので具体的な行動に結び付けるまでが大変なんですけどね。

その他にも、不提訴理由書や会計監査人に対する株主代表訴訟等を軸にした取締役の法的責任に対する追及の厳格化や、取締役の善管注意義務違反が問われた著名な裁判例・判例の解説なども、新たに役員になる方にとっては興味深いのではないかと思います。

難点としては、ほとんどの図解が役に立たない、(特に後半の)問題提起や択一設定に?なものがあるという点がやや気になりました。
また、リーガルマインド喪失症の項目で繰り返し「社会から見れば」「社会に迷惑をかけた」といった具合に「社会」という存在が登場するのですが、この「社会」は、結局のところマスコミと、マスコミの視聴者層なので、そこのところを情緒的にならずにテクニカルな対応方法を見せてくれたらよかったのに、といったことも感じました。

もし、何かの拍子で役員層向けにコンプラ研修をやらなければならないということになったら、この本はいいネタになるんじゃないかと思います。



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ここのところ猪木先生からご恵贈いただいたベンチャー企業の法務・財務戦略をずっと読んでいたのですが、ついに昨日読了しましたので早速レビューします。

手に取った瞬間、なんでこのタイトルで、この厚さ(579ページ)なんだ・・・、と愕然とすること請け合いのボリュームたっぷりな一冊ですが、内容の方も期待を裏切らない濃さをキープしています。

最初はベンチャー企業を取り巻く現状を日米比較や様々な統計を引きながら概観し、投資周り、ガバナンス、エグジットから、さらにはスピンオフや知財の基礎的な知識まで、多様な筆者が入れ替わり立ち替わり語る様は、まるで大学の特別講義のようです。

特に「おぉ」と思ったのが第8章の第6節「シリコンバレーにおける優先株式契約の変遷」で、バブル前(1997〜1998)、バブル(1999〜2001)、バブル後(2002〜2004)、バブル後のさらに後(2005〜2007)、現在に分けて、配当優先条項や残余財産優先分配条項などがどのように変化していったかを追うと、まさに激動の10年だったんだな、と今更ながら感心せざるを得ませんでした。

また、投資契約、株主間契約に関する知識が薄い僕にとっては、実務的な投資契約、株主間契約の知識を補えたという意味でも非常に有用でした。

その反面、共著の避けられない性ではあるのですが、体系だった流れがあるわけではなく、また同じことが分散して言及されているため、基本書のような概観とは裏腹に、辞書的な使い方にはあまり適してはいません。

目次はこんな感じです。

  • ベンチャー・キャピタルとベンチャー企業の関係
  • ベンチャー・ファイナンスの現状と課題
  • ベンチャー・キャピタルの構造
  • ベンチャー投資をめぐる規制
  • 企業形態の選択
  • ベンチャー・ファイナンスにおける投資契約
  • 種類株式の使い方
  • ジョイント・ベンチャーとの比較におけるベンチャー・キャピタル投資契約の特色
  • 人的資本の評価と果実の分配
  • ベンチャー・キャピタルのモニタリング機能と支配の分配
  • ベンチャー投資のエグジット
  • スピン・オフ企業の際の法律問題
  • ベンチャー企業と知的財産権

    ボリュームに比例して安くは無い価格ですが、類書を他に見ないことも併せて考えると、ちょっと奮発して買う価値は十分にあると思います。




    言葉で「有用でした」と言ってもいまいち伝わらないと思いますので、代わりに犬耳さんたちに語って頂きましょう!(僕の癖で、上下に分けて折っています)
    49

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    今月のネタは、シティーユーワ法律事務所編の「なるほど図解 独禁法のしくみ」です。

    タイトルでちょっと引いてしまった方もいらっしゃるかもしれませんが、これは独禁法についてぼんやりとした知識しか持っていない人(たとえば僕のような)には最適な一冊だと思います。

    具体的には、
    • 私的独占は、他の事業者の事業活動を排除または支配した結果、公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限した場合に成立する。
    • 不当な取引制限は、複数の事業者が共同して、相互にその事業活動を相互にその事業活動を拘束し(外形的な一致だけではなく意思の連絡が必要)、一定の取引分野における競争を実質的に制限した場合に成立する。
    • 事業者団体とは、事業者としての共通の利益の増進を目的とする事業者の結合体・連合体をいう。
    • 私的独占や不当な取引制限が競争の実質的な制限を防止するのに対し、不公正な取引方法は、公正な競争を阻害する虞のある行為を類型化し、違法とする点に意義がある
    の穴をひょいひょい埋められる方には物足りず、そうでない方には最適なレベル感だと思います。(無理矢理CSSを押し込んでいるため、ブラウザによっては穴埋めにならないかもしれません。ごめんなさい。)
      いいところ
    • 記述が平易でわかりやすい
    • 見開き2pで(原則)一項目なので、自分の位置を見失いにくい
    • ガイドライン・景表法・下請法なども含めた独禁法規制の全体像を一通り眺めることができる
      いまいちなところ
    • 右ページが文章の解説、左ページが絵や図解という体裁だが、図表は有用なものが多い反面、ほとんどの絵はどうでもいいもので、何の役に立たない。(スペースを埋めたいだけなのかも)
    • 入門書ということもあって、実務に直接役立つ性質のものではない
    どうでもいい絵に割くスペースに「理解度テスト」のような実用的なコンテンツを入れたらいいんじゃないかな、などの気になる点もありましたが、独占禁止法について最初に読む一冊としては、文章のわかりやすさ、内容のレベル感の面からとても優れていると思います。

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    1月に「今年は毎月1冊法律系の本のレビューを書く」と宣言してから2ヵ月後、早速3月・4月とその宣言を守れない事態が発生したわけですが、こういう目標ってのはうまくいかなくなってからが本番ということで、何事も無かったかのように再開します。

    で、再開後の一冊目は「分かりやすい法律・条例の書き方」です。

    契約書のドラフティングはちっちゃな立法作業という考え方に則って、時間のあるこの時期に基本的な知識をおさらいしようと思い、法令の書き方本の中でも読みやすそうな本書を手にとってみました。

    もちろん、テーマが法令の書き方なので、実質的な相違が生じるとは思えない形式的な部分にもふんだんな言及があるので全部が全部契約書のドラフティングに転用できるわけではありませんが、目論見どおり、これは知っておかないとまずいよね、という知識もふんだんに盛り込まれていました。

    以下、その中でも「これは知っておくべき」というものをピックアップしてみます。
    この春から契約法務を担当することになりました、といった方々のお役に立てばうれしいです。
    ※法学部出身で、法学入門的な授業をまじめに受けていた方にとっては当たり前のことばかりですが、実務を通じて受ける感想としては、できてない人は結構たくさんいます。
    • 同一項内の文は「前段・後段」と、段を単位にして数える。ただし、後段が「ただし」で始まる場合は、「本文・ただし書き」と呼ぶ。(この項のように。)
    • 特別法は一般法に、後法は前法に優先する。が、後法と前法が矛盾することは原則としてあってはならない。(ちゃんと前法を引用して関係を処理しておくべき)
    • 条文の基本構造は「主部」「条件」「述部」
    • andは「及び」、orは「又は」。多重構造をとる場合は、andについては並びにを大括弧とし、また及びを小括弧とし、orについては又はを大括弧とし、もしくはを小括弧とする。
    • 条件は「場合→とき→ときに限り」の順序で大前提から小前提に落ちていく。
    • 「前項の場合」は前項全体を指し、「前項に規定する場合」は前項に含まれる条件節を指す。
    • 「A、B、Cその他X」と言う場合、ABCとその他Xは特段の関係は無いが、「A、B、Cその他のX」と言う場合、ABCはXの中に含まれる。(日本語の問題だけれども)
    • 「協議」には、合意にいたることまでは含まれていない。協議の結果、合意にいたらなかった場合も協議義務は果たされたことになる。

    類書を読んだことのない方は、一読するとひとつくらいは「へぇ」という発見があるのではないかと思います。実務上、役に立つかどうかは別として。


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    (最低限)月1ブックレビューのお時間です。
    今回取り上げるのは、親戚の子どもが法学部に入ったらプレゼントしてあげたい書籍ランキング第1位を獲得(片岡調べ)した名入門書、スタートライン債権法です。
    早速参りましょう!

    -----------
      いいところ

      • 基礎の基礎から説明されているので、民法の知識0からでも独習可能
      • 文章構造がシンプルかつ明確で、とても読み易い
      • 教科書としては学説の対立にあまり踏み込んでいない
      • 実況中継系参考書のような展開(通年講義を念頭に置いた季節感のある雑談や試験のお知らせなど)がちょくちょく登場して楽しく読める
      • 読者に対する愛情がすごい。愛されてる。

      残念なところ

      • 判例の引用は限定的(結論だけ)
      • 教科書なので、「明日から実務で役に立つ」といった内容はあまり含まれていない。

    よく、「試験勉強や学校で勉強したことなんて、仕事する上ではほとんど役に立たないんだよ」という言説を耳にすることがありますが、こと企業法務に関して言えば、民法前三編の「お勉強で得た知識」が無いと、かなりアイタタタ・・・な状況に陥ってしまいます。
    そう、企業法務と民法の知識は、切り離すことのできないほどに密接に関わりをもっているのです。
    それにも関わらず、一旦現場に出てしまうと、特殊な場面に関する知識のインプットに励むことはあっても、初歩的な知識のメンテナンスは怠りがちで、その結果、基礎的な知識であるにも関わらずあやふやになってしまっていたり、抜け落ちてしまっていることがあります。

    こんな情けない状態に陥るのを防ぐためには、「簡単すぎないかな」なんて思わずに、刀を研ぐようなイメージで入門書を通読することは有用だと思います。
    そして、このスタートライン債権法は、そのような用途に最適だと感じました。
    何しろこの本、すらすら読めるんです。
    「破産から民法をみえる」は、僕の破産法に関する知識が薄いこともあって「もしかしてもう知識をインプットできなくなっちゃったんだろうか」と思うほどに読了するのが苦しかったんだけど、スタートライン債権法は、楽しささえ感じながら読み進めることができました。
    これは、民法の、しかも入門書ということも当然大きいんだろうけど、池田先生の「理解させてやろうという情熱」や「記述・構成の巧みさ」の寄与がなければここまで判りやすい内容にはならなかったんじゃないかと思います。
    スナップショット
  • 安心してほしい。わからないのが普通である。(p31危険負担の説明にて)」
  • 著者としては、まだ教えていない概念は極力使わず、現在あるはずの知識だけで理解できるように注意して説明している(p56)
  • 本書の読み方も、惰性で「愛読」しないで、著者のあら捜しをするような批判的な目で読んでいっていただきたい。(p102)


  • ところで、この本を読み終わるまで気づかなかったのですが、第二弾のスタートライン民法総論も出ているそうなので、こちらも後で読んでみたいと思います。

    ではでは!

    スタートライン債権法
    池田 真朗
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    破産から民法がみえるを読み終えましたので、レビューします。
    これで1月分のノルマ達成!

    ---

    いいところ
    • 条文参照がきめ細かい
    • 判決文の引用が充実している
    • 実務上の意義についての言及が多い
    • 担保物権に関する理解が深くなる

    残念なところ
    • いろんな意味で、読みづらい
    ---

    タイトル通り、「民法の破産に関連する制度」に触れた後、「破産法上の類似/対応する制度と対比する」という構成をとっており、この形式がハマった項目(詐害行為取消権の判例と否認権に関する破産法の規定とを対比する第14講など)では、まさに「破産から民法がみえる」読書体験を得られます。
    また、実務上の意義や必要性についても多く言及がされているという点も、本書の優れた特徴だと思います。
    さらに、本書でも触れられていますが、倒産時に真価を発揮する担保物権については具体的な効果に触れられるため、ぐっと理解が深まったように感じます。

    ただ、その一方で、
    • 旧法に基づいた記述が厚すぎる
      段落の最後に、改正法で立法的に解決されている旨がさらっと書かれていて脱力することも。
    • 筆者の言いたいことについては、一般的な重要性に関わらず手厚く記載される傾向がある
      特に、「民法畑は破産法を意識していなさすぎ」ということは、食傷気味になるほど繰り返されます。
    • 同じ事柄に関する説明が何度も繰り返され、冗長さを感じることが多い
      よく言えば、通読するだけで復習もできるともいえますが(笑)
    といった点が邪魔して、少なくとも僕にとってはあまり読み易い文章とは感じませんでした。

    なお、タイトルは「民法がみえる」とありますが、民法が破産と重なる領域はそれほど多くは無いため、実際のところは「民法の特定の箇所(担保物権・相殺・詐害行為取消権など)について理解がぐぐっと深まる」と読み替えて読み始めた方が良いんじゃないかと思います(笑)

    さて、次に読むのは池田先生の名入門書「スタートライン債権法」
    注目は短歌だそうです!
    ・・・え、違うの?

    新・破産から民法がみえる―民法の盲点と破産法入門
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