2009年06月

たとえば、公園にりんごの木が生えていたとする。
そのりんごの木には、おいしそうなりんごがたわわに実っている。
そして、そのりんごの木の側には、男が立っている。
うわさでは、「このりんごの木は俺のものだ」と主張しているらしい。
あなたはそのりんごを食べたいと思っている。
こんな場合、あなたはどういった行動をとるべきだろうか。

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  1. 男が自分を見ているかどうかは気にせず、りんごをもぎ取る。りんごはたくさん実ってるんだから、一つくらいもいでも文句を言われるわけは無いだろ。
  2. 男が自分を見ているかどうかは気にせず、りんごをもぎ取る。文句を言われたら、「お前の言い分はおかしい。公園のりんごの木はお前のものじゃない。」と反論する。
  3. 男が自分を見ていない隙を狙ってりんごをもぎ取る。きっとばれない。
  4. 男に「りんごをもいでいいですか?」と聞き、OKであればもぐ。

どうだろう。
まっとうな人であれば、迷わず4を選ぶんじゃないだろうか。
まぁ、もし、あなたがこっそりと事を成し遂げる自信を持っているのなら、3は選ぶことまではあるかも知れない。
でも、1や2を選ぶことは、きっと無いだろう。
思い込み(1)は間違っていたら大変な目にあうし、人に文句を言われるリスクにむざむざ首を突っ込む(2)のはバカげているってことがわかってるからだ。


でも、なぜか、これが「りんごの話」から「著作権の話」になると、とたんに1や2を選択する人が多くなる。
なぜだろう。
りんごは取ったらなくなっちゃうけど、著作物はコピってもなくならないからだろうか。
おいしいりんごは手にしたことがあるけど、価値のある著作権の権利者にはなったことがないからだろうか。

この前軽く問題提起をしたtwitter実況(通称tsudaる)についてもそうだ。
何もどこにいるかわからない権利者を探して許諾を取れといっているわけじゃない。
あなたの目の前でしゃべる予定の発言者に対し、「あなたの発言を要約してネット配信していいですか?」と聞けばそれですむ話なのに、なぜか多くの人は「こんなことで文句を言われるはずは無い」とか、「●●という理由で著作権侵害じゃないと解釈できる」といった方向へ進みたがるのだ。
そりゃ、あなたの考えは、後々正しと判断されるかもしれない。
でも、それはあくまで"後々"の話であり、今目の前に実っているりんごをどうにかできるわけではないというのに。

僕にはそれが、不思議でならない。

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  • この分野での議論が深まり、「その公園のりんごの木は、誰がりんごをもいでも構わないものである」って結論がでたら、そもそも「このりんごの木は俺のものだ」と主張する男もいなくなるはずなので、この問題も発生しないことになりますね。早くそんな日が来るといいですね。そうですね。
  • ちなみに、男の了解を取りたくない人に僕がお勧めする解決法は、「いまからりんごをもぎまーす。もぎまーす。」と大きな声で連呼しながらりんごをもぐ、というものです。
    文句を言われたらやめればいいし、文句を言われなかったら、きっと男は気にしてないんだろうってことがわかるから。
    テレビ局は、テレビカメラという「もぎまーす」の象徴があるからいいですよね。うらやましくはないけど。なんか重そうだし。
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社内研修をやれとのお達しがあったので粛々と準備をしていたのですが、一人法務の悲しいところで、研修の内容を相談できる相手がおらず、ちょっと不安を感じていたところ、amazon先生から「ムダ!な研修」という本を薦められたので買ってみました。ぽちっとな。

そしたら、期待以上に使える本だったので、ご紹介。

ムダ!な研修
ムダ!な研修
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福嶋 覚
日本実業出版社
売り上げランキング: 74224
おすすめ度の平均: 4.0
3 研修を実施する会社の担当者さんへ
4 耳がいたーい
5 研修担当者に読んで欲しい


第1章「なぜ、ムダが生じるのか」では、一般論や、受講者に対しての心構えのレクチャーなどに終始しており、講義をするにあたって直接役に立つ情報はさほど載っていなかったので、これは失敗したかな・・・と思ったのですが、第2章「研修に参加する人の意識を変えよう」以下は具体的なアドバイスがふんだんに盛り込まれていてとても参考になりました。
別に目新しいことがあれもこれもと書いてあるわけではないのですが、著者の研修講師としての経験や、説得力ある理由付けを伴って「こうすべき」と断言されると、迷いもなくなるってものです。

たとえば、対新人の研修に関しては、
  • 事前準備(予習)をさせる
  • ノートにメモをさせる(しかもノートを回収する
  • 研修後に発表させることを事前に伝える
  • 過剰気味なほどに褒める
    といったアドバイスがあり、対中堅社員の研修に関しては、
  • 変化が求められており、あなたにそれを期待していることを伝える
  • 研修と昇進を絡ませる(そして公開する)
    といった感じ。

    他にも、「研修テキストは、渡すべきか?渡さないべきか?」や、「アンケートでは何を聞くべきか」や、「グループワークを行う場合の注意点」など、自分も常々気にしていた事項について明快な答えがどんどん提示されるので、読んでいて小気味の良さすら感じました。
    ただ、ターゲットが「受講者」「講師」「外部講師を使う際の研修事務局」の三者を行ったりきたりするので、その点だけはちょっと気になりました。
    文章自体は読みやすいので、なおさら残念です。

    というわけで、社内研修の改善に興味のある方は、ぜひご一読ください。
    お勧めです。

    「受講者の欲する情報を、その現場にいない研修担当者にわかれと言うのが無理である。だから受講者の欲する研修を提供できる研修担当者はほとんどいないのだ!」(via ムダ!な研修
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    今日の明け方、久しぶりに父親の夢を見た。
    会社で苦境に立たされていた僕を、突然現れた父が颯爽と救い出してくれる夢だ。

    ありえない話なのに、夢の中の僕は、自然とそのシチュエーションを受け入れ、心底安堵していた。
    「親父が来たから、もう大丈夫」って。
    30過ぎていい大人になった今も、僕は父親の見えない庇護の下にいるらしい。

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    僕の父は、何しろすごい男だった。
    世の中がバブルの終わりを実感し始めた頃、父親は、所属していた会社の経営者の先見の明の無さに絶望し、長年勤めた会社を辞めた。
    僕はまだ小学生で、兄は中学生。
    日本中が不景気ムード一色に染められていた当時、これからお金がかかって仕方の無い年頃の息子を二人抱え、今思えば相当不安があったはずなのに、子供たちには「何の心配も無い」という顔をして毎日を過ごしていた。
    そして実際、僕は(おそらく兄も)、我が家の経済状況については、何の心配もしていなかった。

    会社を辞めてから2年、生産士と中小企業診断士の資格を取った父は、独立コンサルタントとして仕事を再開した。
    僕は、父が買ってきた「会社の名前のヒント集」みたいな本を読んで、ドイツ語の響きのかっこよさにしびれ、ドイツ語の名前を事務所の名前にすることを提案し、即座に却下されたりしていた。
    特筆するような背景の無い一個人が、組織に属さないコンサルタントとして成功するのがどんなに困難なことかなんて、考えたこともなかった。
    しかしそれから数年後、父は、それがあたかも既定のことであったかのように、コンサルタントとして確固たる地位を築き、再び多忙な毎日を送るようになっていた。
    事務所兼自宅にかかってくる電話は、「先生いらっしゃますか?」
    先生って誰のことだよってみんなで笑ったりしていた。
    いろんなところに出張して、いろんなお土産を買ってきてくれた。
    いろんな会社の社長のすごい話、ダメな話を聞かせてくれた。
    家にいるときは、学校へ持っていく弁当を必ず作ってくれた。
    ゲームをしていると、「どうせやるなら真剣にやれ」と言い、母親に渋い顔をされていた。
    大喧嘩して家を出て絶縁状態になったのに、「全部忘れたから今度遊びに来い」と言ってくれた。



    そして、ガンになった。



    母はうろたえ、父は何とかなるさと励ました。
    でも、父の患ったガンは、何とかなる種類のものではなかった。
    そんなの父だってわかってたはずだ。
    でも、父は母を励まし、治療を開始した。

    あれからもう5年。
    父はガンとの壮絶な闘いを経て、ずいぶん小さく、弱々しくなってしまっている。
    昔、両手に兄と僕をぶら下げていたことなんて、もう想像すらできない。
    でも、話すことは、昔のままだ。
    自信家で、家族を愛し、頑固で、自分が犠牲になることを厭わない。
    もう先はそんなに長くないことは、僕も、父も、みんなわかっているのに、話していると、このまま20年くらいは生き続けるんじゃないかと勘違いしそうになる。

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    父と話した後、別れ際に、握手をする。
    あなたの育てた息子は、こんなに強い力で手を握れるようになったんだということを伝えたいからだ。

    もうすぐあなたは死んでしまう。
    でも、あなたの育てた息子は、こんなに強い力であなたの手を握り、たくましく生きているんだ、と。
    そして、自分の父親のことが、こんなにもだいすきなんだよ、と。
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    LAW launcher Mobileのバージョン1.0ができました。
    WindowsMobile端末をお持ちの方は、ぜひお試しください。

    また、Advansed[es]以外の端末で動作確認が取れましたら、ご一報いただけるとうれしいです。

    ダウンロードはこちらから。
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    昨日のエントリーが想定以上に反響があったので、少しだけ補足させていただきます。
    • 結論の「著作権者から許諾を得るべき」は、twitter実況が著作権侵害になるからそう結論付けたのではなく、著作権侵害と評価される可能性がある(個人的には「高いケースが多い」と思ってます)ので、リスクを避けるために許諾を得ておくべきという発想に基づくものです。
    • 仮にtwitter実況が形式的に著作権侵害行為に該当したとしても、その行為が「悪いこと」になるわけではありません。
      むしろ、黙示の許諾がある場合(記者会見など)や、事実上不問に帰される場合(一般公開される座談会など)がほとんどだと思います。
      ただ、自分を守る壁がどのようなものか(事実上の壁だったり、実体法上の壁だったり、訴訟法上の壁だったり)を認識せずに、津田さんがやってるから大丈夫的な安易な発想でtwitter実況を行うと、思わぬところでやけどをする危険があることも同時に十分認識すべきです。(津田さんにとっての壁が、あなたにとっての壁でもある保障はないのです)
      ※津田さんは、twitterでのご発言を追う限り、この点については十分ご留意されていると感じます。
    • 少なくとも現在の日本の著作権実務において、「著作物ではない」という理由で逃げられるケースはかなり限定的であることは注意すべきだと思います。
      もちろん、前例が無い以上、やってみたら勝てるという可能性も十分ありますが、その「やってみる」ということ自体が、一個人にとって非常に高いハードルであることは間違いありません。
    • 僕に、twitter実況の芽を摘もうという意図はまったくありません。
      僕自身、津田さんをはじめとした多くの方のtwitter実況は、とても勉強になりますし、何より新鮮な楽しさを感じています。
      僕は、twitter実況に対する違法性をことさら強調したいのではなく、実況者の方に、抑えるべきところを抑えて、安全にtwitter実況を継続してもらいたいと考えています。
    • 僕をはじめとした多くの一般人は、直接的に価値を生み出せる著作物の著作権者ではないため、著作権者の気持ちに同調しづらいこともあり、無意識に利用者よりの解釈をしてしまいがちだと思います。
      その意味でも、やはり私は「著作権者の同意を得るべき」だと今でも思っています。
    • ただ、私は単なる企業法務を担当する一個人です。私の考えが正しいわけではありません。



    昼休みに箇条書きで思いつくままに書いたので読みづらい部分もあると思いますが、何か気になる点がございましたらご指摘ください。

    ※09/06/01 21:00コメント欄の指摘に基づいて誤記修正
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