2020年09月

はじめに


法務を含むバックオフィスは、一人ひとりが粒が小さめで、かつ幅広い業務を担当していることや、リアクション系の業務の割合が多くなりやすいことから、いい感じの目標を設定できないという悩みを抱える方が少なくありません。

そんな悩みを受け、以前法務の目標設定って、難しいよねというエントリーを書いたのですが(最近書いたと思っていたのにもう4年経ってた・・・恐ろしい・・・)、理屈としてはわかるけど、実際に目標を書く際にはあんまり役に立たないという指摘を受け、今回は個別の目標をどんな感じで表現すればよいかについて、もう少し具体的なアドバイスをお伝えしたいと思います。ほんとうにちょっとしたことなのですが、これをやるとやらないとでは、結構印象に差が出るんです。


評価者に響かない目標


皆さんは、今期の目標として何を設定しましたか?(多分すでに忘れていると思うので、一旦思い出してください)
無事思い出せたら、その目標がどのような要素で構成されているのかを確認してください。
私の経験からの推測ですが、目標として、「何をやるか」しか書いていない方が少なくないのでは無いかと思います。
例えば、「取締役会議事録を電子化する」とか、「●●業務のマニュアルを整備する」とか、「●●社とのM&A手続きを遺漏なく完遂する」といった具合です。(もちろん、実際にはもう少し肉付けがされた記載になっているとは思いますが)

これらの目標はそれぞれ必要なことでしょうし、目標設定でよく言われるSMARTに則っていれば、形式的にも何らまずいところは無いのですが、残念ながら評価者には今ひとつ響きません。なぜなら、あなたがその目標を達成した場合に、法務部に、ひいては会社にどんな良いことが起こるのかがまったく伝わって来ないからです。

ポイントは目的とインパクト


ではどうすりゃいいのよ、というところで出てくるのが今回お伝えしたいちょっとしたアドバイスなのですが、それは
  • 「何をするか」を設定した目的を書く
  • 「何をするか」が実現された際のインパクトを書く
    の2点です。

    まず、目的についてですが、これは文字通り「なんのためにそれをするのか」ですね。
    例えば、「取締役会議事録を電子化する」であれば、ちょっと考えただけでも目的としては
  • 捺印者による捺印の手間の軽減
  • 事務局の捺印回収の手間の軽減
  • 事務局が捺印を代行する実務の改善
  • 議事録完成までの時間の短縮
  • せっかくのブームに乗りたいから
    といった具合に色々と思い浮かぶのですが、あなたが取締役会議事録の電子化を目標として設定した理由は何なのかを明確にすると、まず目標の輪郭がぐっとシャープになります。
    もちろん、上記の目的は相当生煮えなので、これだけではちょっと物足りないのですが、例えば、「ブームに乗りたい」というちょっとふざけた目的も、最新のトレンドを取り入れることで「当社の法務部門はイケてるぞ」と候補者にアピールする材料にするという視点を加えることで、目先の業務だけでなく、採用も視野に入れていますよ、ということを評価者に伝えられるわけです。(それが響くかは会社によると思いますが、なにもないよりマシなのは間違いありません)


    次に、インパクトについてですが、これは「それをしたことによってどのような影響が生じるか」です。
    例えば、「●●業務のマニュアルを整備する」という目標で考えてみましょう。それによって恩恵を被るのは誰でしょうか。もしあなただけが担当する業務であれば、インパクトの範囲としては物足りないでしょうが、全社員が関与する業務であれば「お、それはすごいね」となるかもしれません。また、そのマニュアルの存在によって、どの程度業務が効率化されたり、業務品質が向上したりするでしょうか。もし、作っても誰も見ないだろうね、というマニュアルであれば、インパクトは皆無なので、目標としてそれを掲げるセンスに疑問符がついてしまうかもしれません。
    このように、インパクトを明記することで、自己満足な目標を立ててしまうことを防ぐことができるのです。

    具体的にどう書けばよいのか


    上記を踏まえて目標を書く場合、
    【目的】のために、【やること】を行う。それによって【インパクト】という効果を得る。
    といった感じになります。

    そして、【目的】を書くにあたっては、組織の目標とリンクさせましょう。組織の目標を達成するために自分が何をするか、という位置づけを明らかにするだけで、組織と有機的につながった目標設定ができるのです。(OKR的な発想ですが、OKRを採用していなくても組織目標と個人目標のリンクが有用であることに違いはありません。)

    また、【インパクト】を書くにあたっては、【やること】と【インパクト】との間の因果関係を冷静に見積もりましょう。もし【インパクト】が物足りないのであれば、【やること】を変える必要があります。間違っても、【やること】を変えずに【インパクト】をいじってはいけませんよ。そうした瞬間、それは目標ではなく、願望や夢になってしまいますからね。

    といった感じで、誰でもすぐ実践できて、かつ即効性があるので、意識していなかった方はぜひお試しください〜
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    先日、スタジオジブリが公式サイトで以下の発表を行ったことが大きな話題になりました。
    今月からスタジオジブリ全作品の場面写真を順次提供することになりました。今月は、新しい作品を中心に 8作品、合計400枚提供します。

    常識の範囲でご自由にお使いください
    STUDIO GHIBLI「今月から、スタジオジブリ作品の場面写真の提供を開始します」


    言うまでもなくアニメ映画の場面画像は著作物であり、著作権者のコントロール下にあるため、著作権の例外(例えば私的使用のための複製や、引用など)に該当する場合を除き、その利用は著作権を侵害するのが原則です。

    今回の発表の狙いはすでに多様な分析がなされているので、このエントリーでは「常識の範囲内」であることを条件に著作権者がその利用を許諾する、という法的な枠組みの方に着目したいと思います。

    外縁があやふやな条件がもたらす効果


    ジブリが提示した「常識の範囲内」という条件は、
  • 誰にとっての常識なのか
  • いつ時点の常識なのか
  • 常識とは何か
    の3点がそれぞれ不明確なため、その取扱いが非常に難しくなっています。
    1点目について言えば、もし鈴木プロデューサーの常識が基準なのであればその限界を外部からうかがい知ることはできませんし、仮に客観的に常識とされるもの、だとしても、次は3点目の「常識とは何か」という壁を乗り越えなければなりません。
    更に厄介なのは2点目であり、常識は時代の変化や技術の進歩に併せて移ろいゆくものであり、安定していないというところにあります。
    このようなあやふやなライセンスに依拠して大規模な利用をすることは(まともなライセンシーにとっては)なかなか難しいため、一見フリー素材に準じたようなライセンスに見える「常識の範囲内」ライセンスは、大規模な商用利用を抑止する効果ももたらしています。それが狙いなのかはわかりませんが。

    非常識な人に対しては脆弱


    上記の通り、一見自由に使えるように見えて一定の抑止効果を得られる「常識の範囲内」ライセンスですが、その反面、非常識な利用者に対しては使い勝手が悪いという難点があります。
    なぜなら、ジブリ側が「非常識な利用だ」と判断した利用者に対して著作権侵害を主張する場合、ジブリ側が「常識の範囲内」という条件を満たしていないことを立証しなければならないため、上記の「常識のあいまいさ」がブーメランとして戻ってきてしまうからです。

    ただ、上記の難点は、あくまで法的な枠組みの中で常識の範囲外利用に対抗することを前提とするもので、重厚なファン層を保有しているジブリにとってはそもそも考慮する必要は少ないとも言えます。つまり、(実際にそうするかは別として)特定の「非常識利用」を指して「こういう利用をされてしまうようであれば、今回のようなライセンスは取りやめなければならなくなるなぁ」と呟けば、ファンがこぞってそのような「非常識利用」を潰しにかかってくれることが強く期待できるからです。

    このやり方はうまくできているなぁと思いつつ、誰でも真似できるものではないな、とも思うわけです。

    撤回ベースライセンスという表現の仕方もある


    今回ジブリがそれを狙っていたのかは全くわかりませんし、そうでない可能性の方が高い気はしているのですが、事前に厳格な要件を定めず、自由な著作物を利用を促進すると同時に、意にそぐわない利用を抑止したいという狙いはそれなりに普遍性があるものだと思います。
    そこで、仮に自分が同様の依頼を受けてライセンス文言を創るとしたら、どうやるのかな、と想像し、書いてみたのがこちらです。
    最短距離で根っこだけ抑えることを意識しましたが、それでもそれなりのボリュームになってしまっているのは、ひとえに私の実力不足と、穴があったら塞ぎたくなる法務の悲しい性によるものです。
    自分で代替案を考えてみて、(暗黙の前提に支えられているとはいえ)たった一言で同等の効果を得られる「常識の範囲内」ライセンスの偉大さを再確認した次第です。

    常識の範囲内ライセンスが気づかせてくれたこと


    今回の「常識の範囲内」ライセンスは非常に極端な例ですが、解釈の幅が大きい規定は「法の余白」と呼ばれることがあります(私はシティライツ水野先生法のデザインを読んで意識するようになりました。)
    このような余白の大きい規定は、前述の様に不自由さと自由の両面を併せ持つ不思議な存在で、水が半分入ったコップのように、ある種のテスターとしても機能するのかもしれないということを感じました。
    別の言い方をすれば、日々実務に追われていると、こういった余白は正直「めんどくさい」としか思えないのも事実ではありますが、それを自由自在に乗りこなせることは、最近言葉が独り歩きし始めている法務のクリエイティビティのひとつなのかもしれません。

    また、あらためて考えてみると、その外縁が不明確なのは別に珍しいことではなく、例えば引用の要件も「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」という、かなりあやふやなものです。実務上は、裁判例に従ってきれいに整理された主従関係や必然性などの要件に従って引用の適否を判断することの方が多く、通常はそれで十分なのもまた事実ですが、敢えて沼に足を突っ込んで靴やズボンを泥だらけにしなければ、余白を使い切ることってできないんですよね。
    今回も「●●は常識の範囲内か」みたいな基準のわかりやすさを追い求める議論も見かけましたが、そのような行為は、かんたんさと引き換えに、余白を良さを自らの手で消してしまっているんじゃないかな、と思ったりもするわけです。まぁ、言うのは簡単、やるのは大変の典型ではあるわけですけど。

    といったところで、今日はこの辺で。

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    上司の部下に対するよくある不満の一つとして、「部下の仕事が遅い」というものがあります。
    もちろん、上司になるような方は一般的にプレイヤーとしても優秀であることが通常なので、自分と比べて能力に物足りなさを感じているという面もあると思いますし、純粋に部下の能力が劣っているというケースもあるとは思うのですが、そういった評価の問題ではなく、部下の仕事を遅くしてしまう上司の振る舞いというものもあるよな、と最近考えさせられることがあったので、大好物のパターン分けをしてみました。

    ゴールを明確にせずに仕事を渡す


    ゴール、例えばどのような成果物を作り上げるべきかを明確にせずに仕事を渡してしまうと、部下から上がってくる成果物もずれたものになるのは当然の帰結です。また、ゴールを明確に認識できていない部下は、仕事を振られた後すぐに走り始めることができず、結果として完了までの時間も伸びてしまうことになります。
    上司からすると、そのくらい自分で考えてくれよと思うかもしれませんが、仕様を決めずにシステム開発を発注することとパラレルに考えると、どちらかというと上司側の問題であることが多いのではないでしょうか。

    目標を明確にせずに仕事を渡す


    ゴールは明確であっても、目標、つまり「それをもって何を実現しようとしているのか」を明確にせずに仕事を渡してしまうと、「悪くはないんだけどちょっとずれた」成果物が上がってくる可能性が高くなります。
    ただ、問題はそれだけで終わりません。ゴールがあっているのに仕上げた成果物について上司からずれていると言われ続けた部下は、成果物を渡す前に「これで間違っていないだろうか」と逡巡することになり、この逡巡が遅さにつながってしまうのです。(そして残念ながら、目標がずれた状態で推敲しても、成果物の品質向上には繋がりません。)

    十分な情報を渡していない


    正しく判断する前提として、十分な情報を保有していることは必要不可欠です。
    そのため、情報共有が十分でない中で仕事を渡してしまうと、判断を間違えたり、確認に時間を取られたりして、その結果仕事の完了までの時間ものびのびになってしまいます。
    なお、仕事を渡すタイミングで、関連する情報をもれなく渡しきることは非常に難しく、また、共有者にとっても、被共有者にとっても、十分な情報が共有されているかを判断することも同様に困難なのが通常です。l

    その意味では、普段からしっかりと情報を共有していない上司は、部下の仕事の足を引っ張っていることを明確に自覚すべきです。

    イライラしてる/機嫌が悪いことが多い


    これはとてもシンプルな話で、イライラしている上司には、途中確認や相談をしづらいものです。
    その結果、完成までの時間が伸びてしまうのは当然のことでしょう。
    何かあったらすぐ相談することを部下に求めるのであれば、上司の側も、部下がすぐに相談したくなるインターフェースを維持することに心を砕くべきなのです。

    不寛容


    これもシンプルな話です。成果物の品質が悪かったときに罵られたり、もっとひどいときには相談したとき「そのくらい自分で考えろ」と怒られたりしたことがある部下は、ビクビクしながら仕事をすることになり、その結果仕事の完成までの時間が伸びてしまいます。
    このパターンは、部下を病ませる力が強いので要注意。
    なお、上のイライラしている/機嫌が悪い、とはちょっと違うので、いつもニコニコなのに不寛容な人もいるのが恐ろしいところです。

    納期を明確に伝えていない


    上司としては遅いと思っているのに、部下には遅い自覚が無いというパターンです。
    目標や前提情報が共有されていれば阿吽の呼吸で伝わることもあるのですが、納期といった基本情報すら明確に伝えない上司が、目標や前提情報の伝達をしっかり行っているわけはないので、あまり期待できません。
    このパターンで怒っちゃう上司は、「考えればわかるだろ」みたいなことを言いがちです。いや、わかんないですよ。それ。

    といったところで、ご飯食べてきます。
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    9月1日から新メンバーが加わり、3名体制になったので、山田くん(2人目)の卓越した阿吽の呼吸に甘えるのはそろそろやめにしようと思い、3人で相談しながら業務ルールを作りました。

    業務スタイル

  • 人の間違いや失敗には寛容に。
  • 業務は極力マニュアル化&共有。作ったマニュアルは、誰でも加筆・修正OK(加筆・修正後も忘れず共有)。
  • 共有NGな情報以外の情報は、メンバー間で全て共有する。
  • 共有相手が、共有されたことを把握したと期待しない。
  • 人のやり方に気づいたことがあったら遠慮せず口をだす。但し、決めるのは担当者自身。
  • ゴールは合意して決める。やり方は担当者が決める。
  • 相手に悪意がないことを前提に行動する。

    質問

  • 同じことを何度聞いてもOK。
  • 5分悩んでもわからなかったらすぐ質問。
  • 相手の都合を考えずに自分のタイミングで質問してOK。都合が悪い時は断られるけど気にしない。
  • わからないときにわかったふりをしない。

    Slackのルール

  • メンションは何時でも、何曜日でもつけてOK。通知は、受ける側が設定でコントロール。
  • 業務時間外はメンションに反応する必要なし。というかそもそもslackを開く必要なし。
  • 対応できる依頼にはアサインを待たずにどんどん対応してOK。但し、少しでも迷う要素があったら対応前に部内で相談。

    ミーティングのルール

  • カレンダー上の空き時間は、いつでもミーティングセットしてOK。
  • 作業に集中したい時間帯は、自分でブロックの予定を入れる。


    心理的安全の度合いとか、メンバーのレベル差の度合いによって最適なルールは異なるのだけれど、今のチームでは極力摩擦をゼロに近づけた方がうまくいくと考えてこんな感じになってます。
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