先日マシュマロで頂いたご質問が、とても回答しがいのあるものだったので、いつものようにtweetをつなげる方式ではなく、エントリーにまとめて回答しようと思います。

ご質問のポイントは、「最低限どのレベルまで交渉をし、修正してもらうように挑むべきか」なので、まずこの点についてご回答します。
ある(自社に不利な)条件を受け入れるかどうかを決める基準は、「合意をしなかった場合に取ることになるもっとも良い選択肢(Best Alternative to Negotiated Agreement = BANTA)より、合意した方がよいか」です。ここまでは当たり前ですよね。
そのため、まず上記の回答としては、「BATNA」よりも良いレベル、が答えになります。
しかしここで考えなければならないのは視点の置き方です。目の前に提示された契約書を起点にするとBATNAよりもましなレベルを目指すことになるのですが、もしそのために労力が必要なのであれば、そもそもBATNAを選択すべきなのではないかということです。
そしてもう一つ考慮が必要なポイントは、BATNAはタイミングや状況によってどんどん変わるということです。AWSを使うかAzureを使うかを選定しているタイミングと比べると、AWSにしようと決めて具体的な準備を開始している段階では、Azureを選択した場合のデメリットは大きくなる、といった具合にです。
上記を踏まえると、契約交渉において契約条件をどう設定するかは(確かに重要ではあるけれど)要素の一部でしかない、と言えると思います。つまり、言いたいことは、提示された契約書の条件交渉にフォーカスするとできることはごくごく限定されるけど、契約交渉としてはやれることは他にもあるはずで、そちらは裁量が無限大に大きいですよ、ということです。
なお、話は少しそれますが、一般的に契約交渉はゼロサムゲーム(一方が損したのと同じだけ他方が得する)であり、それが故に妥協を引き出しづらい種類の交渉類型です。
そのため、取り合うパイ自体をでかくする(開発だけでなく保守もくっつけて契約不適合責任を設計する)とか、全然別の話にする(請負ではなく準委任(但し任意のタイミングで解約できる)にしちゃう)といった交渉をするのも法務の腕の見せ所であり、これこそが契約交渉だと思っています。
綱引きは結局力が強いほうがかつわけで、力が弱いとわかっている場合には「力を強くする(良いBATNAを作る)」か、「綱引きではないゲームに切り替える(ゼロサム・ゲームではない交渉に洗浄をうつす」必要があるということです。
文章にするといまいちお伝えしづらいのですが、当社に転職してくれれば口頭でここらへんを伝授しますので、募集が開始されたらぜひエントリーしてください(笑)
そしてこのご質問にはもう一つ重要な要素が含まれています。
そう、「締結を急ぎたい依頼部門から『法務を経由すると遅くなる』と言われる」という件ですね。
これに対する回答としては、「依頼部門と法務」の対立構造を作らず、「依頼部門&法務と相手方」または「依頼者と部門長」の対立構造を作るのがおすすめです。
例えば例示いただいている損害賠償責任について、「修正すべきです」と指摘すると、「急ぎたい依頼部門と、修正させたい法務」との対立が生まれてしまいます。これを「修正しないと、●●のケースで当社は●●の損害を賠償する責任を負うことになって困っちゃいますよね。この前、同じような案件で●●が●●円の損害賠償してましたし、対岸の火事とも言い切れないのが怖いんですよね。」と返してみる。みたいな感じです。
こういう言い方をしても「修正しろってことですか?」みたいな無責任な言い方で詰めてくる依頼者は確かにいますが、その場合には「私が担当者だったらがんばると思います。万が一リスクが顕在化したらって考えると意外たくなっちゃいますからね(笑)」みたいな感じで答えるのがおすすめです。
ここらへんは上記の交渉の話と違ってこれが正解、というものではなく、法務の担当者のキャラや法務部門・法務部長の社内におけるプレゼンスなどにも左右されるものなので、どうする、というところは環境に応じて考えていただくとして、対立ポイントをどこに置くのかのコントロールを意識しようというレベルに抽象化して使っていただければと思います。
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@kataxは、マシュマロで企業法務関連の匿名質問を受け付けています。
無資格法務のキャリア・転職、部門運営、業務効率化などが関心領域ですが、どんなことでも構いませんのでお気軽にお送りください。

ご質問のポイントは、「最低限どのレベルまで交渉をし、修正してもらうように挑むべきか」なので、まずこの点についてご回答します。
ある(自社に不利な)条件を受け入れるかどうかを決める基準は、「合意をしなかった場合に取ることになるもっとも良い選択肢(Best Alternative to Negotiated Agreement = BANTA)より、合意した方がよいか」です。ここまでは当たり前ですよね。
そのため、まず上記の回答としては、「BATNA」よりも良いレベル、が答えになります。
しかしここで考えなければならないのは視点の置き方です。目の前に提示された契約書を起点にするとBATNAよりもましなレベルを目指すことになるのですが、もしそのために労力が必要なのであれば、そもそもBATNAを選択すべきなのではないかということです。
そしてもう一つ考慮が必要なポイントは、BATNAはタイミングや状況によってどんどん変わるということです。AWSを使うかAzureを使うかを選定しているタイミングと比べると、AWSにしようと決めて具体的な準備を開始している段階では、Azureを選択した場合のデメリットは大きくなる、といった具合にです。
上記を踏まえると、契約交渉において契約条件をどう設定するかは(確かに重要ではあるけれど)要素の一部でしかない、と言えると思います。つまり、言いたいことは、提示された契約書の条件交渉にフォーカスするとできることはごくごく限定されるけど、契約交渉としてはやれることは他にもあるはずで、そちらは裁量が無限大に大きいですよ、ということです。
なお、話は少しそれますが、一般的に契約交渉はゼロサムゲーム(一方が損したのと同じだけ他方が得する)であり、それが故に妥協を引き出しづらい種類の交渉類型です。
そのため、取り合うパイ自体をでかくする(開発だけでなく保守もくっつけて契約不適合責任を設計する)とか、全然別の話にする(請負ではなく準委任(但し任意のタイミングで解約できる)にしちゃう)といった交渉をするのも法務の腕の見せ所であり、これこそが契約交渉だと思っています。
綱引きは結局力が強いほうがかつわけで、力が弱いとわかっている場合には「力を強くする(良いBATNAを作る)」か、「綱引きではないゲームに切り替える(ゼロサム・ゲームではない交渉に洗浄をうつす」必要があるということです。
文章にするといまいちお伝えしづらいのですが、当社に転職してくれれば口頭でここらへんを伝授しますので、募集が開始されたらぜひエントリーしてください(笑)
そしてこのご質問にはもう一つ重要な要素が含まれています。
そう、「締結を急ぎたい依頼部門から『法務を経由すると遅くなる』と言われる」という件ですね。
これに対する回答としては、「依頼部門と法務」の対立構造を作らず、「依頼部門&法務と相手方」または「依頼者と部門長」の対立構造を作るのがおすすめです。
例えば例示いただいている損害賠償責任について、「修正すべきです」と指摘すると、「急ぎたい依頼部門と、修正させたい法務」との対立が生まれてしまいます。これを「修正しないと、●●のケースで当社は●●の損害を賠償する責任を負うことになって困っちゃいますよね。この前、同じような案件で●●が●●円の損害賠償してましたし、対岸の火事とも言い切れないのが怖いんですよね。」と返してみる。みたいな感じです。
こういう言い方をしても「修正しろってことですか?」みたいな無責任な言い方で詰めてくる依頼者は確かにいますが、その場合には「私が担当者だったらがんばると思います。万が一リスクが顕在化したらって考えると意外たくなっちゃいますからね(笑)」みたいな感じで答えるのがおすすめです。
ここらへんは上記の交渉の話と違ってこれが正解、というものではなく、法務の担当者のキャラや法務部門・法務部長の社内におけるプレゼンスなどにも左右されるものなので、どうする、というところは環境に応じて考えていただくとして、対立ポイントをどこに置くのかのコントロールを意識しようというレベルに抽象化して使っていただければと思います。
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無資格法務のキャリア・転職、部門運営、業務効率化などが関心領域ですが、どんなことでも構いませんのでお気軽にお送りください。