「で、今日は、どんな案件ですか?」
雑談が落ち着いた頃合いを見計らって、彼はそう切り出した。
もちろん、最初から僕もそのつもりで事務所を訪れてはいるんだけど、どうも悪事を働いているような気がして、いつも雑談から話を初めてしまう。いつか、慣れる日はくるんだろうか。
「今回は知財権です。最近ごく一部で話題になっている、書籍をスキャンしてデータを送るビジネス、ご存知ですか。そうそう、そのあれです。社長がどうも興味を示したようで、今日になって『うちもやろう』なんて言い出したんです。でも、うちはマザーズとはいえ一応上場してますんで、あんまりうかつなことはできないって訳で。」
僕が事情を切り出すと、彼はすらすらとメモをとり、しばらく首をひねりながら目をつぶった。
考えを巡らせるときの彼の癖だ。
「そしたら・・・そうですねぇ。今回は高裁コースでいかがでしょう。筋書きは、うちが持っているハコで書籍スキャンサービスをパイロットスタートしたことにして、事例紹介で著者名を"うっかり"見せてしまう。で、著者に差止請求訴訟を提起させるってことで。最近は出版不況ですから、原告の名義を貸してくれる物書きさんもすぐ見つけられると思いますよ。」
話はすぐにまとまったので、軽く雑談をしてから僕は事務所を後にした。
そして、翌週。
見積書とともに、訴状と答弁書の案が送られてきた。
訴状には、必要な事実が端的かつわかりやすく記載されている。いつものことだ。
答弁書には、事実は全て認めつつ、著作権侵害を否定する主張が記載されている。もちろん、これもいつものことだ。
僕はすぐ彼に電話して、「これで結構です。もう決裁はとってるので、すぐに提起してください。」と伝えた。
ひとつ驚いたことと言えば、10年ほど前に大ヒット作で一世を風靡していた小説家を原告に据えていたことだ。小説家ってのも、大変なんだな。
そして、今日は待ちに待った判決日。
高裁コースで発注しているので、まだこれで確定する訳じゃないけど、請求が棄却されたりしたら今日からサービスインに向けて本格稼働しなきゃならない。
判決はうちだけのものじゃないからね。
さて、どうなることか。
お、裁判官さまのお出ましだ。
なに、そんなに睨まないでくださいよ。
僕だって、好きでやってるんじゃないんですから・・・
雑談が落ち着いた頃合いを見計らって、彼はそう切り出した。
もちろん、最初から僕もそのつもりで事務所を訪れてはいるんだけど、どうも悪事を働いているような気がして、いつも雑談から話を初めてしまう。いつか、慣れる日はくるんだろうか。
「今回は知財権です。最近ごく一部で話題になっている、書籍をスキャンしてデータを送るビジネス、ご存知ですか。そうそう、そのあれです。社長がどうも興味を示したようで、今日になって『うちもやろう』なんて言い出したんです。でも、うちはマザーズとはいえ一応上場してますんで、あんまりうかつなことはできないって訳で。」
僕が事情を切り出すと、彼はすらすらとメモをとり、しばらく首をひねりながら目をつぶった。
考えを巡らせるときの彼の癖だ。
「そしたら・・・そうですねぇ。今回は高裁コースでいかがでしょう。筋書きは、うちが持っているハコで書籍スキャンサービスをパイロットスタートしたことにして、事例紹介で著者名を"うっかり"見せてしまう。で、著者に差止請求訴訟を提起させるってことで。最近は出版不況ですから、原告の名義を貸してくれる物書きさんもすぐ見つけられると思いますよ。」
話はすぐにまとまったので、軽く雑談をしてから僕は事務所を後にした。
そして、翌週。
見積書とともに、訴状と答弁書の案が送られてきた。
訴状には、必要な事実が端的かつわかりやすく記載されている。いつものことだ。
答弁書には、事実は全て認めつつ、著作権侵害を否定する主張が記載されている。もちろん、これもいつものことだ。
僕はすぐ彼に電話して、「これで結構です。もう決裁はとってるので、すぐに提起してください。」と伝えた。
ひとつ驚いたことと言えば、10年ほど前に大ヒット作で一世を風靡していた小説家を原告に据えていたことだ。小説家ってのも、大変なんだな。
そして、今日は待ちに待った判決日。
高裁コースで発注しているので、まだこれで確定する訳じゃないけど、請求が棄却されたりしたら今日からサービスインに向けて本格稼働しなきゃならない。
判決はうちだけのものじゃないからね。
さて、どうなることか。
お、裁判官さまのお出ましだ。
なに、そんなに睨まないでくださいよ。
僕だって、好きでやってるんじゃないんですから・・・
コメント
コメント一覧 (7)
訴訟にすると、合計で2人弁護士が必要だと思いますが、その費用はだれがもつんでしょうか?
弁護士費用は、「僕」が持つことになりますが、訴状を書くだけなので、さほど高額にはならないと思います。
なにしろ、事実に全く争いがありませんからね〜
横からで失礼します。
>訴訟にすると、合計で2人弁護士が必要だと思いますが
なるほどさんのご指摘は、訴状も答弁書も書いてしまうと弁護士職務基本規程にひっかからないかという点ではないでしょうか。
職務規程は見たことないのですが、一番の問題は、紛争もないのに訴訟を提起する(ことの手助けをする)ことだと思います(笑)
ここがクリアできれば、あとは形式的な問題なので、どうとでも解決できるんじゃないかと思います。
実際には争いがない以上は利害対立関係もないわけですから。
ではでは〜
一人でやると弁護士職務基本規程(第27条)にひっかかりそうという話はさておき、上場企業がサービスを公表して、仮の“被害者”である小説家が差止請求するというシナリオなのでしょうか。被告が“争わない”ということは原告が主張する被害の存在(構成)を認めることになるので、争わなかったら「負けて当然」ということにならないでしょうか。
逆に、事前に法律問題を片付けたかったら、文化庁に確認するという方法がありますよね。文化庁は「ダメ」っていうかもしれませんけど。あるいは出版社や著者に向けて「侵害にあたらない」と提訴するとか。MYUTA 裁判も MYUTA が起こした裁判ですよね。矢面に立たされる出版社には“すげー迷惑”な話ではありますし、聞かれたら「ダメ」っていうしかないような気がしないでもありませんけれど。
私の想定した今回の案件は、上場企業が法律事務所に依頼し、依頼を受けた法律事務所が原告である小説家と被告となるベンチャー企業を見つけてきて判決を取りに行くというシナリオです。
事実は争いませんが、法律の適用は争う(主張されているのは事実だが違法ではないと反論する)ので、負けて当然とはならないと思います。(判例をとりに行く時の最高裁と同じ感覚だと思います)
なお、行政への確認は、ノンアクションレターは秘匿性に乏しく、通常の問い合わせは確度が低いという問題があり、またその性質上保守的に判断されるという欠点があります。
いずれにせよ、思いつきをそのまま文章化しただけですので、ネタとして楽しんで頂ければ幸いです(笑)
こういっ発想大好きです!
これからも拝読させていただきます。