契約法務に携わったことのある方は誰しも、「何でダブルチェッカーの先輩が気付けたあの穴を自分は見落としてしまったのか」という情けなさを抱いたことがあるのではないかと思うのですが、今日書くのはその話です。

人が持つ注意力の総量は決まっていると仮定する

実際どうかなのかはよくわかりませんが、「人が持っている注意力の総量は決まっている」「穴の発見のためには一定量の注意力が必要」と仮定すると、この現象に説明がつくように思います。
どんなにがんばっても投入できる注意力の総量は変わらず、そしてその総量が契約書の隅から隅まで行き渡らせるには足りない場合、契約書のどこかに注意力の投入不足の部分が生まれます。そして、そこに穴があると、発見できずにスルーしてしまうことにつながるわけです。

なぜ先輩はあなたが見落とした穴に気づけるのか

ダブルチェッカーの先輩があなたの見落としたミスに気づけたのは、あなたより注意力量が多かったからとは限りません。
最も大きいのは、先輩はダブルチェッカーであり、あなたがいったん注意力を消費して整えてある程度綺麗になった成果物を確認しているので、変なところで注意力の損耗が発生しないという点です。逆にいえば、先輩が穴に気付けたのは、その穴以外を綺麗に整えたあなたの功績でもあるのです。
また、先輩が優秀な方である場合は、注意力を投入すべきポイントをあらかじめ把握していることで注意力の集中投下が可能になり、あなたが見落とした穴を発見できたということもあるかもしれません。
いずれにせよ、あなたが無能だったからではなく、ダブルチェッカーとの関係とはそういうものだと思うのです。

注意力のリセットを意識する

一旦仕上がった後一晩寝かして翌日再度チェックしてから返す、という対応はよく行われていることだと思いますが、実際そうすることでミスを発見できることはままあります。これは、時間を置くことで注意力の減耗がリセットされるからだと考えるとしっくりきます。
印刷して読むとミスが見つかるのも同様に、媒体が変わることでリセットが起きます。このようなリセットのトリガーを持っておくことで、擬似的にダブルチェックを行うことが可能になります。
ポイントは、2回見ることではなく、注意力のリセットを発生させた後に再度確認することなのです。

注意力の無駄な損耗を避ける

注意力の総量を意識し始めると、インデントを整える、表記揺れを避ける、正確さだけでなく読みやすさも考慮する、といったことがなぜ必要なのかも肌で理解できるようになります。これらができていないと、注意力が無駄に損耗してしまうのです。ただ単に、綺麗な方がいいよね、みたいなお気持ちの問題ではないのです。
他方で、これらの事項に注意力を消費してしまっては本末転倒なので、みんな大好きBoostDraftやGVA assistやLAWGUEなどに肩代わりさせるのが良いのだと思います。

プレイブックや雛形を注意力効率を上げるために使う

プレイブックは人による判断品質や判断内容のブレを抑制する機能を、雛形は効率化機能を重視して備えられていることが多いと思いますが、いずれも注意力が無駄に損耗するのを避ける機能も発揮してくれます。
つまり、軸が定まっているから、その軸からの距離が離れているポイントに注意力を集中的に投下できるようになるのです。

まとめ

一晩寝かしてもう一度見ましょうとか、形式を整えましょうとか、雛形を整備しましょうといったよくある親父の小言を注意力を切り口に整理してみたら意外にしっくりくる感じになりました。
注意力の無駄打ちを避けつつ、穴の発見に至らないような注意力の小出しで無駄に損耗するのもやめにして、注意力の的確な集中投下をやっていきましょう!
これが、言うは易し、行うは難しってやつですね!