AとかBでは人間関係が把握しづらいので、便宜上登場人物に名前をつけていますが、全て仮名です。同名の方が居たとしても、その方とは何の関係もありませんのでご了承ください。
本エントリーは、「H16. 4.27 宇都宮地方裁判所栃木支部 平成15年(わ)第366号」を基にしていますが、小見出しを付けるなど、一部改変もしています。

第一章「僕は、幸せになりたかっただけなんだ」
 拓哉は,昭和63年ころ最初の婚姻をして2子をもうけたが,平成6年ころ離婚し,次いで,平成7年ころ紀香と再婚して4子をもうけた。拓哉は,平成9年春ころから勤務先の会社の都合上,単身赴任生活を余儀なくされ,a県b市内の妻子のもとへは年に10日程度しか帰らない日々を送っていたところ,平成11年8月ころ,当時拓哉が店長として勤務していたc県d市内のカラオケ店の店員であった真奈美と親密な関係に陥り,e県内に転勤になった後も,真奈美との交際を継続した。その後,平成12年中には,妻紀香真奈美との不倫関係が発覚し,拓哉は,紀香から真奈美と別れてほしい旨懇願されたが,なおも真奈美との交際を続けていたところ,同年末ころ,真奈美拓哉の子を妊娠したことが判明した。そこで,拓哉は,紀香と離婚して真奈美と婚姻することを決意し,平成13年3月ころから,e県内で真奈美と同棲を開始し,真奈美は,同年8月,長女を出産した。拓哉は,平成14年5月に至り,紀香に対し慰謝料と子供らの養育費を支払うことを条件に紀香と離婚し,拓哉真奈美は,同年7月ころから,拓哉の転勤に伴ってa県f市内で生活を始め,同年9月に婚姻し,平成15年1月に次女をもうけた。

第二章「信じなければ、裏切られることも無いのに・・・」
 ところが,真奈美は,拓哉の勤務が多忙で,休日も取れず,1週間ほど家に帰れない状態が続いたことなどもあって,寂しさの余り,同年6月ころ,携帯電話のいわゆる出会い系サイトを利用して憲二なる男性と知り合い,親密な交際を始め,間もなくそれが拓哉に発覚すると,憲二を家に連れてきて,憲二拓哉に対し,「結婚したい,別れてくれ。」などと言うのを,そのそばで黙って聞いていた。拓哉は,真奈美の態度に驚くとともに,立腹もしたが,後日,真奈美とその母親を交えて話し合った結果,真奈美憲二との関係を清算して,拓哉ともう一度やり直す旨約束したため,勤務先会社に依頼して時間的に余裕のある本社勤めに異動させてもらい,同年7月10日ころ,一家でf市を離れて,真奈美の実家に近いd市内に転居して,真奈美や子供らと一緒に過ごす時間を増やす努力をしながら,新しい暮らしを開始した。

第三章「どうして僕だけを見てくれないの?」
 しかし,真奈美は,その後も憲二への未練を断ち切れず,間もなく拓哉との約束を破って憲二との交際を再開し,それが拓哉に発覚すると,拓哉に対し,離婚を申し出るに至った。拓哉は,二度目の妻や子供らを捨てて真奈美と婚姻し,真奈美との間に2人目の子ができたばかりなのに,勝手な振る舞いを続ける真奈美を許すことができず,離婚の申し出を断るとともに,真奈美に対する怒りを抑えきれず,同年7月後半から翌8月下旬にかけて,3回ほど,真奈美に対し,殴る蹴る等の強烈な暴行・脅迫や,性的虐待を繰り返した。そのため,もう一度拓哉とやり直そうと思い直していた真奈美は,それに耐えられなくなり,最後の暴行等があった同年8月29日,離婚を決意して子供らを連れて家を出た。

第四章「君は、僕を愛するべきなんだ」
 拓哉は,真奈美への未練を断ち切ることができず,真奈美の所在を探し回った末,ようやく真奈美と電話で話したり,直接会って話し合ったりしたが,真奈美の離婚の意思は堅かった。拓哉は,同年9月中旬ころと,同年10月中旬ころに真奈美に会った際には,真奈美の気持ちが戻るのではないかという期待もあって,嫌がる真奈美と強引に肉体関係を持つなどしたが,それでも真奈美の離婚の意思が変わらなかったため,悲観的な気持ちになり,真奈美に対し,一緒に死のうなどと口走ったり,その首を絞めて,無理心中するような素振りを示したりした。

第五章「僕と真奈美の絆が他人にわかるわけ無いじゃないか」
 真奈美は,そのような拓哉の再三の暴力等に畏怖し,警察等にも相談した結果,同年10月21日,宇都宮地方裁判所D支部に対し,配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律による保護命令の申立てをし,同裁判所は,同月31日,同法10条により,拓哉の住居以外で真奈美につきまとい,又は真奈美の居住場所付近をはいかいしてはならないとの趣旨の保護命令を発し,同命令の決定書は,同年11月1日,拓哉に送達された。しかし,拓哉は,その後も,真奈美に会おうとして,何度か真奈美が当時借りていたc県g郡h町内のアパート付近を訪ねたが,真奈美には会えなかった。
 拓哉は,同月11日午後6時ころ,また,同アパート付近へ行った際,真奈美が同アパートを引き払って転居したことを知ったが,真奈美の転居先はそんなに遠くはないだろうなどと考えて,付近を探し歩いていたところ,同郡同町内のEアパートi号棟の真奈美の転居先を見つけた。そこで,拓哉は,真奈美に会って行こうかどうか迷ったが,保護命令に違反することになるからと,そのときは自制してそのまま同県d市内の自宅へ帰った。しかし,拓哉は,裁判所から送付されてきていた上記保護命令の決定書や,その後真奈美が家庭裁判所に申し立てた離婚調停の期日の呼び出し状等を見ているうちに,このまま真奈美と離婚することは納得できない,やはり真奈美に会おうと決意して,翌12日午前2時30分ころ,自宅を出て,真奈美方へ向かった。

第六章「僕は、本当に、幸せになりたかっただけなんだ・・・」
 拓哉は,平成15年10月31日,宇都宮地方裁判所D支部から,6か月間,拓哉の住居以外の場所において真奈美(当時31歳)の身辺につきまとい,又は同住居以外の真奈美が通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを内容とする保護命令を受けていたが,同月12日午前3時15分ころから同日午前3時30分ころまでの間,当時真奈美が居住するEアパートi号棟付近をはいかいし,もって保護命令に違反した。
 拓哉は,正当な理由がないのに,同日午前3時30分ころ,真奈美方に,無施錠の玄関から侵入した上,同日午前3時40分ころ,同所において,就寝中の真奈美が目覚めるや,真奈美に対し,布団の上から馬乗りになり,その口を塞ぐなどして,「騒ぐな,静かにしろ。」などと告げる暴行を加えたところ,拓哉が加えたその暴行により真奈美が畏怖しているのに乗じて,強いて真奈美を姦淫しようと決意し,更に,真奈美に対し,その着衣を脱がす暴行を加え,その反抗を抑圧して,強いて真奈美を姦淫した。

判決
懲役2年6月


参考:素の判例